宿泊業のスマート化研究会2024

第2回スマート化研究会|2023年9月25日(月)

宿泊客への観光価値やサービスの提供、人材不足など宿泊業における課題は山積みです。これらの課題を解決するために、スマート化研究会では様々な議論や、展示会での展示などの活動に取り組んでいます。
第2回のスマート化研究会では主に下記2つを実施しました。

  • 徳江順一郎氏の講義「スマート化の定義と近年の宿泊業界の課題整理」
  • 全体議論|参加ユーザーの提案テーマ発表

「参加ユーザーの提案テーマ発表」では、前回ご説明した経験価値を軸として課題をまとめあげ、解決策の道筋についても発表していただいています。

前回の発表会「経験価値」については、【こちら(リンク下記)】からご覧ください。
第1回 2023年度スマート化研究会 | 国際ホテル・レストランショー HCJ2024 (jma-hcj.com)

徳江氏よりインプット「スマート化の定義と近年の宿泊業界の課題整理」

スマート化の定義

「スマート化」とは、相手がモノであることを忘れさせてくれる、高度に洗練された画面や体験を実現したものです。
またIoTが普及した世界では、 消費者がモノをモノであることを忘れさせ、モノが自律的に判断した上で、全体の中で最適な制御を行うようになることになります。

消費者がモノをモノであることを忘れるということは、高度な情報処理能力を備えた「モノ」が対象を「モノである」ということを、お客様に忘れさせます。
まるでそれ自体が人間の様に何かを考えて、その結果を自然な形で伝えてくるといった印象を持たせるようになることもあります。

 

日常生活におけるスマート化とは

我々の身の回りのものを例に挙げると、スマートフォンやスマートウォッチがそれにあたります(通常製品群の中でのスマート化)。

・スマートフォン

コンピューターによる制御処理能力を携帯電話に搭載して、個々人がいつでも・どこでもWEBに常時接続する事を可能にしました。情報取集、情報発信等々幅広い使い方が可能です。

・マートウォッチ

スマートウォッチは、腕時計の役割を果たしながらスマートフォンやWEBと接続する機能を搭載し、さらに体に関する情報を測定・数値化する事でアルゴリズムによって健康状態を見える化。腕時計をスマート化したデバイスとも言えます。

IoTによるスマート化は、アナログなものが繋がりやすくなったり、人間が他のものとやり取りをしたり、AIが自律的に判断して何かをして、人間の生活を豊かにして利便性を高めていきます。

宿泊業のスマート化とは?

徳江氏は宿泊業のスマート化について、「自立分散型の色々な情報処理機器を、各所につけることによって、それぞれが有機的に連動できるようにすること」と、おっしゃっていました。
旅行で例えると、ひと昔前なら色んな旅行会社を調べて、サービスや費用を比較していました。しかし現在では、スマホ1つで簡単に各旅行会社の情報を、簡単に比較できるようになっています。

宿泊業のスマート化については、講義のなかで以下の例を挙げています。

  • 宿泊というものを、制御するためのPMSなどだけではなくて、宿泊客への情報提供だったり色々な情報処理能力を使っていく
  • これまで手書き台帳で記録していたものを、情報化していきながら、その情報を繋いで何かしらのクラスにも持っていけるようにする
  • AIチャットボットなどを使い、宿泊客と従業員との情報共有を双方向化していきやすくする
  • ダイナミックプライシング(価格設定)を、AIが自律的にやってくれるようになる
  • ユーザーインターフェースを進化させ、消費者が宿泊の取扱説明書をスマホ的に直感的に操作でき、知ることができる

 

顧客体験価値向上に向けたスマート化

「宿泊業のスマート化」で挙げた例は、あくまで宿泊業・施設が作業効率を上げていくためのコスト削減を目的としたスマート化です。
宿泊業では人手不足が長年の課題として挙げられており、スマート化で作業効率を挙げ、生産性の向上を実現することが求められます。

徳江氏はスマート化によってコストを削減して実現する生産性向上もさることながら、価値を向上するスマート化に期待をしています。
「顧客体験価値向上に向けたスマート化」を実現することで、価値の向上が可能だと。そのためにはユーザーの「ニーズ・欲求」を見える化し・実現するスマート化がまだまだ不足しているとのことです。

徳江氏いわく「宿泊客が、なぜこの地域を選んで観光に来たのか?そして、その地域でなぜこの宿を選んだのか?それが、分析できていない部分がある。宿泊客が選んだ理由、それをスマート化によって見える化することが可能ではないか。」とのことです。

東洋大学 国際観光学部 准教授
徳江 順一郎(とくえ じゅんいちろう)

■上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了。
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザインの事業等を手掛ける。2011年に東洋大学国際地域学部国際観光学科に着任。ホスピタリティの理論科目、ホテル経営関連、ブライダル関連の科目を担当。
■専門分野:ホスピタリティ・マネジメント、経営学、商学
■著書・論文等:『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティ・イノベーション』 『ホテルと旅館の事業展開 [創成社]』『ホスピタリティ・デザイン論 [創成社]』 『ホスピタリティ・マネジメント[同文舘出版]』 『ホテル経営概論[同文舘出版]』等 著書・学術論文多数

徳江 順一郎氏

全体議論|参加ユーザーの提案テーマ発表

参加ユーザーより課題の発表、また自社ブース提案テーマやチーム研究の提案テーマを発表してもらいました。
主な課題や取り組み、製品の内容については、各メーカーが表にしてまとめてきていただいています。主な内容は以下の通りです。

 

参加メーカーA

鍵のスマートを手掛ける企業。A社のスマートロックは、民泊から旅館やホテルまで幅広く導入いただいています。

解決したい宿泊業の課題
提案したい新しい価値
具体的な製品 お役立ちのポイント
経営へのインパクト
顧客の顧客に与える影響
自社製品 ・人材不足/生産性の低下

・業務効率化、コスト削減

・セキュリティの向上

・ホスピタリティの改善

RemoteLOCK(TOBIRA) + クラウド管理システム ・人件費削減、人材不足解消

・リソース配分の最適化および 効率的な運営

・体験価値の向上

・データ解析による効果的なマネジメント

・持続可能な経営

・滞在中の快適性、 利便性の向上

・「QRや暗証番号でカギ を開ける」という新しい体験

・セキュリティ、プライバ シーの確保

未来志向提案 ・サステナビリティへの対応

・人材採用/育成および労働環境の改善

・訪日外国人観光客への対応

・顧客単価、収益性の向上

・施設の老朽化

・IoTを活用したスマートルーム

・音声アシスタントによる照明や空調などの調整

・AR、VRによる施設内および周辺の観光スポットなどの表示

・スマホやタブレットによる コンシェルジュとのコミュニ ケーションの円滑化 (多言語 対応)

・スマホのQRコードひとつで客室の解錠/施錠

部屋付け精算
会員専用サービス (マイルクーポンなど) が完結する?

・付加価値を高めることによる収益向上

・最先端技術の活用による競争力強化

・口コミ/評価の向上

・新しい体験

・快適性、利便性向上

簡潔にまとめると、内容は以下の通りです。

  • 宿単純に客室の扉をQRコードで上げられるだけだとただの製品なので、幅を広げてそのQRコードだけで究極何でもできるようにしたい
  • そこで自社製品の性能や強みを進化させつつ、ホテルなどの各施設の課題を解決して、利便性を上げていきたい
  • QRコードで、宿泊業における作業の効率化を解決することで、「人件費削減」と「人材不足解消」を解消しながら、宿泊客の快適性や利便性を向上していく

 

参加メーカーB

従業員の方々の業務に関する内容を、動画で学べるオンライン学習プラットフォームを販売している企業の発表です。

解決したい宿泊業の課題
提案したい新しい価値
具体的な製品 お役立ちのポイント
経営へのインパクト
顧客の顧客に与える影響
自社製品 人材不足 動画で業務を学べるオンライン学習プラッフォーム

※研修動画を簡単に作成することができ、様々な業務をより具体的に学ぶことが可能

・人材の早期戦力化を実現できる

・海外人材の活用も可能になる

・人材の早期戦力化による「おもてなし「力」の強化で、 宿泊体験が向上する

・海外人材の即戦力化やスキルの均質化に よる宿泊客への宿泊体験が標準化できる

未来志向提案 人材不足やブランディング不足 「人と会わない」 おもてなしアプリ

※宿泊者様に提供するスマートフォンアプリ
※宿泊者情報DBと連携し、さらに施設内のRFIDを設置し てセンシングすることで、ホテル従業員と会わずに館内 でパーソナライズされたサービス (おもてなし) を受け ることができる

・人に依存しない 「おもてなし体験」の提供

・省人化

・「人に会わずに」パーソナライズされた宿泊体験を経験できる

・過去の履歴を活用するので、宿泊する毎にパーソナライズが強化され宿泊体験が上がる

簡潔にまとめると、内容は以下の通りです。

  • 人材不足を、弊社の製品で解決していきたい。ポイントは「海外人材の早期戦力化」と「人と会わない、 おもてなしアプリの開発」
  • 弊社では海外人材を扱っていて、海外人材の方々の早期戦力化をポイントにしている
  • 若者世代をはじめ、他人と価値観などが合わないことに強いストレスを感じる人が多い。将来的には「人と会わない、 おもてなしアプリ」を提供して、宿泊客の快適な宿泊体験を実現していきたい

 

参加メーカーC

ホテルのスマート化を支援していて、ホテル向けクラウドサービスやネットワーク関連機器・設備工事・ホテル業務用機器を提供している企業の発表です。

解決したい宿泊業の課題
提案したい新しい価値
具体的な製品 お役立ちのポイント
経営へのインパクト
顧客の顧客に与える影響
自社製品① 修繕管理や定期メンテナンスなど、 アナログ運用が多く残るバックオフィス業務の効率化 修繕やメンテナンスの進捗状況、客室ごとの修繕や備品の記録管理、備品 の更新時期、関連する費用シミュレーションなどが可能なクラウドサービス ・施設管理の進捗やアクションの共有

・施設運営のノウハウの蓄積

・ボリュームディスカウントなどの交渉材料としての活用

・設備や備品関係でのストレスやトラブルが無い

・(間接的に) 接客やサービ スなどの業務品質向上

自社製品② 人材流動がおこる中でも業務品質の 維持やビジョン/コンセプトの体現がで きる自立自走型組織の実現 宿泊客や従業員が施設を、どのように感じているかというデータを取得システム+そのデータを可視化するダッシュボード+補完する教育システム ・従業員のエンゲージメントやモチベーション向上

・上記に伴う離職率低下、早期戦力化など

(間接的に) 接客サービスなどの業務品質向上
未来志向提案 人に会いに行くという新しい観光体験の提供とそれによる付加価値の創出 ガイドおよびエバンジェリスト (ツアーコンダクターではなく例えば田島オーナーやOMOレンジャーのイメージに近い) の発見&予約サービス ・観光人材の活躍の場の広がり

・地域の認知度やイメージの向上

・新規/リピーター客の獲得、オフシーズン時の来訪需要創出

観光客自身だけでは得られない深みのある体験・心に残る時間を提供できる

簡潔にまとめると、内容は以下の通りです。

  • 施設管理の進捗の共有はリアルタイムでは難しいので、設備や備品関係でのストレスやトラブルが無いよう、解決に取り組んでいる
  • 弊地域の観光情報を、どう具体的に提供していくか、というのが将来の課題でありテーマ
  • 宿泊客や従業員が施設、観光やサービスに対してどのように感じているかをデータ化して、観光客自身だけでは得られない深みのある体験・心に残る時間を、具体的に提供していきたい

 

参加メーカーD

客室向けのテレビやインフォメーションシステムを、全国約500物件・10万室以上に展開している企業の発表です。

解決したい宿泊業の課題
提案したい新しい価値
具体的な製品 お役立ちのポイント
経営へのインパクト
顧客の顧客に与える影響
自社製品 ・人材不足

・サービス品質の統一

・インバウンド対応

・客室テレビ
・インフォメーションシステム
・各種インフォメーションブック、各種Sign, Noticeのデジタル化による、管理及び作成コスト減 ・ストレス減
未来志向提案 ・人材不足

・客室単価の向上

上記にプラスして、アプリ連携 ・タクシー配車アプリやフードデリバリーサービスなどと連携。手数料の徴収。配車に掛かる時間の削減。 ・ストレス減

・満足度向上

簡潔にまとめると、内容は以下の通りです。

  • 人材不足やインバウンドの対応などを、客室向けのテレビやインフォメーションシステムを提供することで、ホテル側の業務効率化の向上に取り組んでいる
  • 現在、そしてこれからはインフォメーションブックなどをデジタル化して、様々なコスト削減や顧客に対する分かりやすい情報発信を提供していく
  • 将来的には、客室向けのテレビやインフォメーションシステムにアプリを連携して、宿泊客がスマホでタクシーの配送やデリバリーサービスを受けやすいようにしたい

まとめ

全体議論では参加ユーザーの発表のほかに、ゲストや学生が参加した話し合いが行われました。こちらでもやはり内容は、スマート化によって人材不足の解決や、宿泊客のサービス向上を図るにはどうすれば良いか、ということでした。

また、企業がスマート化を推進しても、消費者にどれくらい浸透するか不安、という声も聞かれました。ゲストや学生の意見、不安を加味しつつ、今後の課題や解決方法について、スマート化研究会では引き続き追求していきたいと思います。

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