宿泊業のスマート化研究会2023
第5部(第2回地域連携推進分科会)「地域と施設とイノベーションと」
第5部 (第2回地域連携推進分科会)
「地域と施設とイノベーションと」
第2部(第1回ホスピタリティDX分科会) 「施設の“ナカ”のスマート化を考える分科会開催」
第3部 (第1回地域連携推進分科会)「宿泊施設の顧客体験価値の最大化に向けた障壁と現状とのギャップ」
第4部(第2回ホスピタリティDX分科会)「施設の未来像からバックキャストする」
第5部(第2回地域連携推進分科会)「地域と施設とイノベーションと」
第6部 (第3回ホスピタリティDX分科会)「実現の為のハードルは?課題克服の方法議論」
第7部(第3回地域連携推進分科会)「個人情報を制する者は観光を制す?!」
第8部(研究会全体会2)「展示に向けた具体化を開始!ユーザーと共に刺さる提案を検討」
第9部(第4回ホスピタリティDX分科会)「未来の展示につなぐ情報発信を考えた(ブース内セミナー検討)」
第10部(第4回地域連携推進分科会)「ここだから、ミニサイズだからできるリアルなセミナーを!(ブース内セミナー検討)」
第11部(第6回ホスピタリティDX分科会)「展示内容決定・共有!、さらに来年に向けて・・・」
第12部(第6回地域連携推進分科会)「地域連携分科会も展示内容が決定! 次年度に向けてスマート化を再定義!」
第13部(研究会全体会3)最終回、結果報告とこれからにむけて・・・!
第14部(展示レポート)「宿泊業のスマート化研究会をレポート!」
番外編「未来のクリエイターとコラボレーション「日本工学院」との取り組み」
第2回目の地域連携推進分科会は、第1回目で浮き彫りとなったテーマをもとに「2030年の宿泊施設と観光資源の関係性について、ありたい姿」について以下のような観点から議論していきます。
- その地域ならではの地域資源の【確認と再発見】
- 地域資源の観光資源化による【開発】
- 観光資源と宿泊施設を【つなぐ】
- 観光資源を宿泊施設のおもてなしに【取り組む】
参加企業 ※順不同、法人格省略
新井旅館
三菱電機
紅鮎
ソニーマーケティング
リゾートトラスト
ネットフォレスト
コプロシステム
構造計画研究所

2030年という未来を見据えて「業界の現状と課題」
今回の進行も徳江先生に務めていただきました。議論に先立ち、まずは徳江先生によるインプットが行われます。
「はじめは2025〜6年を目安に検討してはということだったのですが、それではあまりにも近すぎるという意見がありました。改めて振り返ってみると、10年前の日本はまだガラケー主体であり、今とはだいぶ違っていたという意味では、5年〜10年先を見据えて、キリの良い2030年、ここを未来の姿の基準として考えてみたいと思います。」
2030年に向けて地域資源を活かした地域DX(観光振興のためのデジタル技術展開の取り組み)を推進していくため、徳江先生から、前提として認識しておくべき「現状」「課題」「取り組みの方向性」の説明がなされました。
以下は、徳江先生の講義のまとめとして紹介いたします。
現状:「2年半に及ぶコロナ禍による社会の変化」
- デジタル化により、リモート会議や講義が増加
- 貨幣への依存度が低下し、SuicaやQRコードなどの電子決済が急増
昨今の社会の急激な変化は、COVID-19の大流行により市場が急速に変化したことでもたらされたものです。
先進的な技術革新によってもたらされたわけではなく、すでに存在していた技術の活用方法に変化が生じたものによります。
課題:「急速な市場の変化にどのように対応していくのか」
- 利用可能なテクノロジーが存在しているのも関わらず市場側がついていけてない現状
顧客側はテクノロジーの性能に関する十分な知識がないため、導入に消極的になっているのが現状です。そのため、コロナ禍によってもたらされた社会変化の認識や知識を促すのがカギとなってきます。
取り組みの方向性「イノベーション(技術革新)」
- イノベーションに必要なのは、技術よりも「仕組みの構築」
革新性は物理的技術より「仕組みの構築」にあるため、物理的な技術革新にだけ意識を向けることなく、顧客の利便性を追求するような発想の転換が必要です。例えば、テレビが一家に一台の家電となり得たのは、コンテンツ配信という「仕組み」を確立できたから、世界中の消費者に、本や映画を抜いて最も愛されているメディアとなりました。
- 仕組みを捉えるために宿泊施設と”ソト”との関係に目を向ける
宿泊業界において仕組みを理解するためには、宿泊施設と”ソト”の関係を見る必要があります。例えば、美しく豊かな自然環境や歴史のあるお城などの観光資源に触れるためには、移動手段の問題や、身近で触れるための場所がないと「行ってみたい」「体験してみたい」いう動機が生まれません。
そのため観光動機を生み出し、観光者の欲求を満たすために、宿泊施設ふくむ観光施設の関係が重要となってきます。
- 宿泊施設と”ソト”との詳細な情報を共有する仕組みを作ることがイノベーション
観光動機を喚起させるためには、移動手段や施設の発達に限らず、その場所の詳細情報を発信する仕組みも発達させなければなりません。人によって楽しみの定義が異なるからこそ、観光者が足を運ぶ「観光資源」と「観光施設」の両輪で、きめ細やかな情報提供をすることが大切です。観光動機を喚起するような情報を絶えず観光者に共有できる仕組みを成立させることが、今後の目標になってくるでしょう。
徳江先生からのインプットから、現状の課題を確認するとともに、地域のデジタル変革を成功させるためには、「観光資産」と「観光利便性」の結びつきが重要であることが明確となりました。
これらの前提を認識した上で、2030年に向けてスマート化可能な取り組みや考えられる要素について、議論を深めていきます。
より自由な発想を 現役大学生が創造する2030年ありたい姿

続いて、参加者がより柔軟な考えを発揮できるように「現役の大学生が創造する2030年のありたい姿について」東洋大学の皆さんによるプレゼンテーションが行われました。
宿泊業事業者様やメーカー様の当事者以外からの斬新な発想により、これまでにはない可能性の糸口が見えたプレゼンテーションとなりました。
- ARやVRの技術の導入によって、天候やタイミングによって行けなかった場所へのアクセスや、これから行く場所の下見など、非常にリアルで没入感のある体験をできるようにする
- 観光対象の周辺地域(飲食店など)の混雑状況を、地域という大きな枠組みですべて把握できるようなシステムの提案
メーカー様から、「産業界でも同じようなことを考えています。世代は違えど、同様の発想を持っていることに対し、世代を超えて提供できる価値の意義を再認識しました」というご意見も出てきた学生プレゼン。次世代の若者らしいフレッシュな視点の中に、業界の抱いている考えとも合致する部分があることが分かりました。
チームディスカッションによって浮かび上がる新しい関係性
最後に、今回のメインテーマである「2030年の宿泊施設と観光資源の関係性について、ありたい姿」について3グループに分かれてのチームディスカッションが行われました。
あらかじめ実施していただいた事前課題(宿泊施設と観光資源を軸とした相互の関係)をもとにディスカッションを行い、2030年に向けた具体的な道筋を描いていきます。
ディスカッション後の総括は、チーム代表者によるプレゼン形式で行われました。
旅行者自身が情報を取捨選択する「自己完結型の旅の提案」

まずは、セルフプロデュース型の旅の需要の増加に伴う施設側のあり方の変化について提案が行われました。
こちらのチームは、宿泊事業者様からお客様自身がクラウド上の情報を取捨選択し、施設側はそれをサポートする、というアイデアをもとに以下のようにまとめました。
- 観光に関わるあらゆる情報をポータル化する
- 収集した情報を基に顧客のニーズを汲み取り、旅行者自身が自分の好みに合わせた旅の形を創造できるシステム(アプリやサービス)を構築する
- システム情報を宿泊施設や周辺施設と共有し、現場で個別の要求に合わせたサービスを提供する
お客様の趣味趣向は細分化されているため、今までのように施設側から提案することには限界がある懸念をもたれているようです。
お客様自身がクラウド上の情報を取捨選択してセルフプロデュースできることで、施設側はニーズを満たしたサポートができるのでは?という結論に至っています。
このようなシステムが機能すれば、省力化や効率化といった施設側の希望にも合致するというメリットも合わせて期待されています。
地域との繋がりを意識した仕組み作りの重要性

続いては、デジタル化を促進する上での地元住民の方との連携の重要性が語られました。
デジタルでシステム上繋がるだけでは地域とのつながりは生まれづらいため、宿泊施設は近隣の住民に何を提供できるかを軸に考える必要があるという内容です。
具体的には、空き家を旅館にし、宿泊施設は食事やアメニティを提供するなどで協力し合えば地域の人たちの事業が発展し、周辺地域が活性化するという考えです。
地元住民の方との連携が担保されてこそデジタル化が促進できるという意見でまとめらました。
「スマート化実現に向けた具体的な障壁は地元の方でなければわからない点が多くあり、いきなり広域連携という形は難しいと考えています。まずは特定の地域に絞って実現していきたいです」と、今後の研究会で明らかにしていきたい課題についても示して頂きました。
信頼度の高い情報を基にしたオールインクルーシブの実現
宿泊施設と近隣の観光地をしっかり結びつけるために、地元に精通した知識が不可欠であることが、このチームでは浮き彫りとなりました。
しかし宿によっては、その地域以外のスタッフがいるため、周辺地域の事情や観光者のニーズを満たすような情報が提供できない懸念点があるようです。
そこで、データの正確性と独占性を保証するための明確で的確な提案がなされました。
- その地に住む人たちのリアルな声を収集するデータバンク
- スタッフの知識はAR技術と音声を活用したアプリケーションで補う
「観光地の気候や土地の特色によってもたらされるデメリットを逆手にとってウリにする」というユニークな発想も示されました。具体的な内容については今後の課題としたいとのことです。
宿泊施設側と観光資源をつなぐ手段としては、観光地の清算をパッケージ化し、地域レベルでのオールインクルーシブで実現する内容です。
一括清算で宿泊施設側と観光資源をつなぐ観光地の清算をパッケージ化し、地域レベルでのオールインクルーシブプランをつくることによって地域との関係性を強化できるのではという考えです。
そのためには、観光者がそこでの体験をより具体的にイメージできるために、地元に根差した情報が必要だと、始めの議論につながる形でまとまりました。
3チームそれぞれから忌憚のない意見が飛び交ったチームディスカッション。2030年にあるべき姿の輪郭が見えてきたところで、研究会は全体の総括へと移行します。
観光地域全体が密接に結びつく観光構造への意識
宿泊施設と“ソト”との関係性に焦点が置かれた本研究会ですが、2030年のあるべき姿とは「技術革新に留まらない仕組みが構築されている状態」であり、そのために「観光地に携わる地域全体の密接な関係構造」を進めていくことが重要であることがわかりました。
観光地に携わる地域全体の密接な関係構造を実現するためには、
- 地域情報のポータル化
- 地域側との関係づくり
これらを両輪で行っていくことが必要になってきます。
観光客のニーズに合わせた情報のポータル化を加速させつつ、関係人口や交流人口(観光はしていなくても観光地との関係を持っている人々)との関係をしっかりと構築していくことで、観光地域全体が密接に結びついた観光構造が実現できるのではないでしょうか。
本研究会で得た中間的結論を基に、次回以降、新たな議論が展開されていきます。実現していくべき多くの課題には、研究会が意図するスマート化が欠かせません。
宿泊施設を軸とした地域観光振興の実現へ向けた大前提を再認識したところで、第3回地域連携推進分科会は幕を閉じました。
東洋大学 国際観光学部 准教授
徳江 順一郎(とくえ じゅんいちろう)氏
■上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了。
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザインの事業等を手掛ける。2011年に東洋大学国際地域学部国際観光学科に着任。ホスピタリティの理論科目、ホテル経営関連、ブライダル関連の科目を担当。
■専門分野:ホスピタリティ・マネジメント、経営学、商学
■著書・論文等:『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティ・イノベーション』 『ホテルと旅館の事業展開 [創成社]』『ホスピタリティ・デザイン論 [創成社]』 『ホスピタリティ・マネジメント[同文舘出版]』 『ホテル経営概論[同文舘出版]』等 著書・学術論文多数
