宿泊業のスマート化研究会2023

第6部 (第3回ホスピタリティDX分科会)「実現の為のハードルは?課題克服の方法議論」

第6部 (第3回ホスピタリティDX分科会)
「実現の為のハードルは?課題克服の方法議論」

第1部(研究会全体会1)「宿泊施設の顧客体験価値とは何か」
第2部(第1回ホスピタリティDX分科会) 「施設の“ナカ”のスマート化を考える分科会開催」
第3部 (第1回地域連携推進分科会)「宿泊施設の顧客体験価値の最大化に向けた障壁と現状とのギャップ」
第4部(第2回ホスピタリティDX分科会)「施設の未来像からバックキャストする」
第5部(第2回地域連携推進分科会)「地域と施設とイノベーションと」
第6部 (第3回ホスピタリティDX分科会)「実現の為のハードルは?課題克服の方法議論」
第7部(第3回地域連携推進分科会)「個人情報を制する者は観光を制す?!」
第8部(研究会全体会2)「展示に向けた具体化を開始!ユーザーと共に刺さる提案を検討」
第9部(第4回ホスピタリティDX分科会)「未来の展示につなぐ情報発信を考えた(ブース内セミナー検討)」
第10部(第4回地域連携推進分科会)「ここだから、ミニサイズだからできるリアルなセミナーを!(ブース内セミナー検討)」
第11部(第6回ホスピタリティDX分科会)「展示内容決定・共有!、さらに来年に向けて・・・」
第12部(第6回地域連携推進分科会)「地域連携分科会も展示内容が決定! 次年度に向けてスマート化を再定義!」
第13部(研究会全体会3)最終回、結果報告とこれからにむけて・・・!
第14部(展示レポート)「宿泊業のスマート化研究会をレポート!」
番外編「未来のクリエイターとコラボレーション「日本工学院」との取り組み」
会場風景

第3回目の開催を迎えた、ホスピタリティDX分科会。今回は、前回「2030年に宿泊施設のありたい姿」で出てきた期待や課題に対しての解決策としてメーカー様に空想パンフレットを作成いただきました。

空想パンフレットとは、下記の5項目をまとめることで、まだ空想上のコンセプトモデルを具体的に表現したものです。

  • 実現するビジョン
  • 解決する課題
  • 具体的な提案
  • 自社の優位性
  • 顧客への提供価値 顧客のベネフィット

空想パンフレットをもとに、ディスカッションを行い、実現するためにクリアしなくてはならない「壁・ハードル」を表面化して、解決策(アイディア)を探っていきます。

ファシリテーターは前回に引き続き、東洋大学の国際観光学部准教授である徳江先生が勤めます。

参加企業 ※順不同、法人格省略

aipass

三菱電機

構造計画研究所

りそなカード

ホクリョーリード

2023年のありたい姿のまとめの議論

徳江先生から前回のおさらいとして、以下スマート化のアイディアについてまとめていただきました。

【チェックイン/チェックアウトのスマート化】

  • ゲストが所有するスマートフォンの活用
  • PMSとクレジットカードの連携

【文化との関わり】

  • その地域に訪れたということを感じてもらうために、方言を交えた案内
  • エリア全体のPMS
  • 建築や服装まで地域性を出す

【革新的手法】

  • 予約プラットフォームの統一、PMSの連動
  • 全館モニター配置による情報共有
  • プライベートコンシェルジュ

【滞在中の客室】

  • 鍵のスマート化、スマホのテンキーの活用
  • 客室を自分好みにカスタマイズ
  • プロモーションマッピングで地域文化を反映した環境映像の投影

【スマート化による業務効率化】

  • SNS活用したコミュニケーション
  • エミュレーターの導入による教育へのスマート化

「これらのことを総合的に考えていかなければなりません。みなさまには個別的サービス提供、カスタマイズは必須であるとおもいます。ひとつのサービスを全体に提供するのではなく、1人にたいして複数のパターンができるようになってきているのではないでしょうか。そういう世界でスマート化が活躍できるのではないかと私は期待しています。」

「ルーティンワークは自動化していくべきで、従業員側の負担を減らすためにシンプルにしていく必要があります。そして、うまれた余力をサービス向上につなげていくことができると考えられるでしょう。」

「高級ホテルでは接客のスマート化に抵抗がありますが、バックオフィスでは様々なことを自動化してくべきだと思います。また、規格の統一をすることで利便性が上がります。研究会でまとめた意見を政府に提言していきましょう!」

徳江先生からは、前回の研究会で出た課題解決のためのアイディアをまとめたうえで研究会の意義を提示していただきました。

以降は、東洋大学国際観光学部の学生のみなさまから「他業種におけるスマート化」についてのプレゼンテーションが行われました。

学生による他業種におけるスマート化についてプレゼンテーション

このプレゼンテーションの意図として、徳江先生から以下コメント。

「宿泊業のことだけを意識していると、視野が狭くなってしまいます。そこで他業種の事例についてまとめてきてもらいました。」

既成概念に縛られないより柔軟な発想を共有いただくことで、今回の議論の活性化をはかります。プレゼンテーションされた内容は以下の通りです。

●医療機関におけるスマート化事例

人工知能、データ分析、モノのインターネットなどITによる最先端技術の力を活用し、透明で効率的なヘルスケアシステムを構築。医療サービスの質の向上、医療の業務効率化、患者の利便性向上などを目指す内容。

●教育機関におけるスマート化の事例

学習データを基に分析する、AIサービス、学習ソフトの導入。また、アプリによる学生の情報の管理も可能。

●飲食店におけるスマート化の事例

配膳のオートメーション、セルフオーダーなど、飲食業でのスマート化についての紹介

●航空業界におけるスマート化

旅客手続きの自動化プログラムの紹介。チェックインの自動化や保安検査の高速化などの事例の説明。

●交通におけるスマート化の事例

スマートフォンのアプリの導入によって、タクシーの配車やキャッスレス決済の導入によるスマート化の事例等について解説。

学生の発表いただいた他業界のスマート化の実例は、どれほど宿泊業が遅れをとっているかが伺えました。これは決して悪いことではなく、宿泊業においてもスマート化の実現に向けて、取り入れるべき要素も発見できた貴重な意見だったと思います。

メーカー・ベンダー様によるプレゼンテーション

会場風景

続いて、メーカー・ベンダー様による空想パンフレットによるコンセプトモデルの発表をしていただき、ディスカッションによってブラッシュアップを行っていきます。

ディスカッションは共有されたアイディアをもとに、下記2点の視点からブラッシュアップを行っていきます。

① 実現するためにクリアしなければならない”壁・ハードル”
② その”壁・ハードル”をクリアする為の解決策(アイディア)

以降、議論の中心となったプレゼンテーションの内容と、ディスカッションで挙げられた問題提起をまとめて紹介します。

行政の連携やPMSとクレジットカードの連携に課題あり!

決済端末のサービスを提供しているメーカー様のコンセプトモデルでは、主に生体認証によるフロント業務の削減と、顧客が自発的に地域にお金を落とす仕組みの構築について発表がありました。

【地域商品、サービスを認知させる仕組み】

  • 現地消費型のふるさと納税

【宿泊者情報の特定】

  • 生体認証技術で宿泊者情報の特定を行い、チェックイン処理や客室の誘導をおこなう
  • 宿泊代、サービス利用代等の自動計算および支払に活用しフロントを介さないチェックイン/アウトを目指す

これについては、行政との連携の難しさと、PMSとクレジットカードの連携、顧客情報活用のハードルについて多くの意見が寄せられました。

現地消費型のふるさと納税のアイディアは、現地と行政との協力を得られないと実現できないハードルの高さが懸念として挙げられました。宿泊業における行政の連携は、これまでの研究会でも問題視されています。

生体認証の活用については、施設側は顧客側に顔認証の利活用の承諾を得る必要があります。顧客側は顔認証そのものに抵抗感を抱く方も多いことから、サービス利用者と顧客側で壁が生じてしまうことに懸念点を抱いている宿泊事業者さまが多くいらっしゃいました。

また、生体認証を活用した先にあるPMSとクレジットカードの連携においては、チェックアウト時点で清算されるのが解決できていない状況から、難しいのでは?という声も。

厳しい意見あがりましたが、ぜひこの問題をクリアしてほしい!という期待が込められた意見も出ていました。

QRコードは将来的にも媒体として普及している可能性があるのか

会場風景

宿泊事業向けのスマートロック、管理システムを開発されているメーカー様からは、主にQRコードを活用したPMS連携や、顧客情報の付与について発表がありました。

【施設のリソース不足、おもてなし時間確保】

  • 予約からチェックイン(QRコードの活用)までのシステム連携および自動化
  • 施設滞在に必要な情報の自動提供・オンライン化

【双方向の送客】

  • 地域のレストランや施設などと連携し宿泊プランに落とし込む「施設にとじない観光・宿泊体験の提供」

【新しい付加価値の提供】

  • 個人の体質の情報や過去の利用履歴を活用し、ゲストの嗜好に合わせたプランの提供

こちらの発表に対してもPMS連携の課題感について挙げられました。
また、QRの活用については、現時点で最善のIDだがこの先はどうか?働く側の負担(コスト)が増えてしまうのではないかという懸念も。

徳江先生からQRコードについて以下コメント

「QRは現時点でのIDになってくると思うのですが、将来的にも媒体として普及しているかはわかりません。新しく変わるものがでてくるのではないかと私は考えています。そうなると機器の更新、変更などの問題も出てくると思っています。」と将来的な予想からくる課題を語られました。

また、チェックイン時のQRコード付与だと、チェックイン以前にサービスを提供することができないのではない。そのためにチェックインの前後で楽しんでいただける仕組みづくりが必要ではないかという意見も出ています。

チェックインと決済以外でQRコードは実際に活用できるようになるのか

イベントや展示会における来場管理に特化したサービスを提供しているメーカー様からは、ホテル・宿泊施設イベントにおける集客・来場の管理についてや、働く人材向けの学習コンテンツ豊富化について発表がありました。

【ホテル・宿泊施設イベントにおける集客・来場管理にかかる受付業務のペッケージ化】

  • QRコードを発行することによる受付業務簡略化
  • ホテル、宿泊施設を利用するお客様へのパッケージとして提供

【学習コンテンツの方負荷をおこない、従業員のリスキングや外界人材等の消極活用】

  • 学習用の動画コンテンツが制作できるサービスの用意
  • 複数のコンテンツをカリキュラム化、同時に受講者の進捗管理を行う
  • サービス内でテストや対話型コミュニケーションを可能にする

宿泊事業者さまからは、イベントへのシームレスの参加というコンセプトから、QRコードと連動したチケットレス朝食サービスを進めたいとの強い要望がありました。

しかし、朝食券の権利者と鍵のデータを連携させたいが、できるところがない現状があるそうです。

教育のスマート化については、対面教育とオンライン教育の格差を危惧した意見が挙がりました。それに対して、現役引退した経験豊富な女性スタッフにリアルタイムでオンラインを活用したOJTはできないのかというアイディアが提案されました。

施設内の人の動きを可視化し、スマホで管理できれば業務効率化が期待できる

会場風景

施設内の自動ロボットなどを提供しているメーカー様からは、業務効率化や人材不足を解決する提案をいただきました。

【ホテル全体のセンシング】

  • 衛星とセンタを活用して忘れ物チェック、老朽化検査や従業員の行動を把握し、業務効率化を図る

【自分だけの空間演出】

  • プロジェクターを使って部屋の模様を宿泊者の気分に合わせて変更
  • 見て楽しむ宿泊体験として入口から部屋までの空間を時間ごとで演出

宿泊事業者さまからは、スタッフ全員の配置が流動的のため、現状はインカムで情報共有をおこなって適正配置をしている現状から、スマホで顧客の動きや従業員の動きが可視化できれば、かなりの業務効率化ができる、と希望の声が寄せられました。

空間演出に関しては、プロジェクターの導入コストが高い点や、客室などの小空間ではチープに見えてしまうのでは?という意見も出ました。

顧客満足度の蓄積・解析をして、施設をより良く改善していく

【顧客満足度を可視化し蓄積と解析をおこなう】

  • 顔認証インフラと表情・音声などの解析技術を整い、滞在中の顧客の満足度が見える化できるような状態に
  • 顧客の満足度を情報として蓄積することで宿泊施設の可視化を目指す

主に議論の焦点となったのは、顧客満足度の蓄積や解析についてです。これまでの議論でも挙げられましたが、蓄積・解析をしていくうえで、法的・モラル的な壁は避けて通れないためマストでクリアする必要があります。

また、口コミに関しては、施設のコンセプトと顧客側の合う・合わないという価値観の違いが含まれるため、良い・悪いで判断するのが難しいという意見も。

消費者の価値観の多様化に伴い、価値尺度も変化しています。動画、音声、価格だけでない多様な価値尺度に対応可能なOTAプラットフォームがあるといいかもしれません。

チェックイン前からお客様対応が始まっている!オートコンシェルジュで解決できるか

【マイコンシェルジュでパーソナライズな旅行体験を提要】

  • パーソナライズ情報をチェックイン時に取得
  • 天気データや行動データ、過去データを組み合わせて、顧客ごとに最適な接客プランを構築

こちらの発表に対してはマイコンシェルジュに対する要望が多く寄せられました。
ある宿泊事業者さまはインバウンドのお客様からチェックイン前に多くの要望が来るため事前対応だけでも疲弊している状況のようです。

予約をとれないお店の予約を取るのがコンシェルジュの腕の見せどころともいわれているため、サービスのクオリティを落とさず、少しでも業務負担を軽減するために、予約のオークションサービスと連携ができれば良いという意見も。

また、お客様対応をセミオートで引き受けるオートコンシェルジュや、お客様の要望に対して情報を提供・予約できるプラットフォームの構築ができれば、大部分の業務を軽減できるとアイディアを後押しする声も集まりました。

ここまで発表に対して多くのご意見が集まる場となりました。ディスカッションを通して、徳江先生から「冒頭では皆様に壁とハードルを探ってほしいとお願いしていましたが、解決策や解決のためのニーズの開示まで共有いただける内容になりました。」と総括し、本研究会は終了しました。

次回は今日の議論を受けて、宿泊業のスマート化研究会ブース内セミナー会場で実施する企画についてのアイデア出しを行っていきます。

東洋大学 国際観光学部 准教授
徳江 順一郎(とくえ じゅんいちろう)

■上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了。
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザインの事業等を手掛ける。2011年に東洋大学国際地域学部国際観光学科に着任。ホスピタリティの理論科目、ホテル経営関連、ブライダル関連の科目を担当。
■専門分野:ホスピタリティ・マネジメント、経営学、商学
■著書・論文等:『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティ・イノベーション』 『ホテルと旅館の事業展開 [創成社]』『ホスピタリティ・デザイン論 [創成社]』 『ホスピタリティ・マネジメント[同文舘出版]』 『ホテル経営概論[同文舘出版]』等 著書・学術論文多数

徳江 順一郎氏

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