宿泊業のスマート化研究会2023

第2部
「宿泊施設の顧客体験価値の
最大化に向けた障壁と現状とのギャップ」

HCJ三展合同事務局では、観光立国という日本の成長ビジョンを実現し、宿泊業界がサステイナブルな経営活動を持続していくためには、慢性的な人手不足の問題解決とともに、訪れる人々にとっての顧客体験価値向上が必須と考えます。

スマート化研究会では、様々なテクノロジーによる顧客体験価値向上の先進的な取り組みを研究し、参加者の業界プレゼンスの向上のみならず、日本能率協会がサービス産業の振興を始めた50年余年、展示だけではなく、メーカー・ユーザー・大学・研究機関を”つなぎ”研究会として新しい提案を行います。

前回開催した第1回目宿泊業のスマート化研究会「宿泊施設の顧客体験価値」の議論を受け、今年度はそこからソト(宿泊業の地域連携推進分科会)とナカ(ホスピタリティDX)の2つの分科会に別け、議論を進めていきます。

今回は第2回目として、宿泊業の地域連携推進分科会として、宿泊施設を軸とした地域観光振興の実現に向け、ソト「その土地、施設ならではの文化や魅力をどのように顧客に提供していくか」をテーマに、東洋大学の国際観光学部准教授である徳江氏をファシリテーターとして迎え、以下を研究していきます。

  • 観光資源の掘り起こし、コンテンツ化、発信、情報共有
  • 地域間連携を促進し地域単位での誘客・送客
  • 地域文化・特性をどのようにおもてなしに落とし込むか
  • 上記を推進するにあたり求められる人材とは 

本記事は研究会のまとめとして発信いたします。

参加企業

メーカー/ベンダー

三菱電機株式会社

株式会社構造計画研究所

ソニーマーケティング株式会社

株式会社コプロシステム

ユーザー(宿泊事業者)

アライブ・ホスピタリティ・デザイン

新井旅館

紅鮎

大和ハウスリアリティマネジメント株式会社

リゾートトラスト株式会社

今なにができるか。そして5~10年後までになにがしたいか

今回の研究会のゴールとしては、本研究会で「今なにができるか&5〜10年後までになにがしたいか」を確認するために、本研究会参加メーカー・ベンダーのサービス・ソリューションの確認。また、ユーザー企業の課題から、取り組むべき宿泊業界の課題を明らかにしていきます。

今回棚卸をした情報を受け、次回に向け「ありたい姿」の定義をしていく流れとなります。

「これまで業態を別けて話を進めていましたが、今回は宿の「ナカ」と「ソト」を別けて研究を進めたいとお話をいただきましたので、それに伴い、グループ編成も若干変更しております。

「今回の研究会に関しては、宿のソトの部分に対して、メーカーの皆様から「こんなことができるんじゃないか」という話から、逆に宿側からは、「こういったことができるといいな」あるいは「こういったことを問題点として考えています」さらには、その先の理想的な姿までお話を頂けたらと思います。

徳江氏のお話の後、研究会の目的とゴールの再認識をしたうえで、自社が宿泊業界に提供している、または、しようとしているソリューションや取り組みの事例について各社の紹介から、本研究会がスタートしました。

三菱電機株式会社「三菱電機のロボットへの取り組み」

スタッフさんが定期的に運ばれている荷物や、お客様の荷物を運ぶのをロボットに対応してもらう多用途移動ロボットTelemo2(テレモ2)を開発。

時間帯に応じて業務内容が異なるホテルに対し、荷台部分を切り離すことで、色々な形へ変更が可能。様々な業務に対応することができるため、24時間稼働できるロボットとなっている。

また、昨年度の研究会で他の業態の方たちとソリューションを繋げ弁論するということで、ホテルス&レストランショーの出展のために「多用途移動ロボットTelemo3(テレモ3)」を開発。

ポイントは顔認証端末がついていること。顔認証機能により、時間帯別の来場客属性分析が可能、また大きなサイネージがついているので、その人に応じた広告が発信できたり、テナント・近隣店舗の情報の発信やクーポン発行ができたりします。

「自動搬送、異常検知/点検、遠隔対応が可能になり、来客対応の省力化、顔認証による顧客属性分析、さらにはご案内といった方向で展開できていくのではないかと思います。」

「以前は館内でのロボットとして動かしていたが、内部でも活用できるのでは?とご提案をいただきました。更には外部での対応もロボットを活用してできるのではないか?将来的な方向性をお示しいただきました。」

構造計画研究所「ホテルの業務効率化、スマート運営へ」

今回紹介するのはリモートロックという複数のドアと入室者をクラウドで一括管理できる入社管理システム。
遠隔から入室制限を発行したり、入室履歴の把握が可能なため、カギや入室の現地対応を削減し、施設運営の無人・省人化、非対面化を実現する。

動きとしては、ホテルシステムと連動し、予約した際に、利用者ごとの暗証番号やQRコードを発行し、お客様がスムーズにチェックインできるシステムです。

カギとして利用されているサービスですが、発行したQRコードを活用し、宿泊者が宿の外へ出た時、様々なサービスをQRコード1つでシームレスに受けることができることを理想としています。

「暗証番号がカギ代わりになり、クラウド管理を推進していくことによる省人化も実現できる。一方で注目する点は、QRコードです。」

「QRコードを軸としたお客様対応も可能となってきます。お客様が1人1人持つものなので、単純にカギとしてではなく、1対1対応がそこに生じてきます。さらに拡張して言うとN対N対応といったところまで。その場合いかに地域連携に繋げていくのか・・・。個別対応の色々な情報提供ですとか、様々な可能性が広がっていくと考えることができます。」

ソニーマーケティング株式会社「お客様の滞在価値の向上を」

ソニーマーケティング様は様々な分野で活躍されている企業様です。ホテルの部分でいうと、業務用のディスプレイ・テレビであるブラビアを提供しております。

テレビに関しては、大型化が進んでおり、4Kテレビの市場シェアも増えています。ソニーマーケティングさんも、スマートな4Kテレビ・アンドロイドテレビをメインに提供されているようです。

ディスプレイ以外にも、放映する写真や映像の取り組みとして、デジタルカメラの提供もしています。

特にブラビアを用いて、インフォメーションの表示や地方創生の一環として、観光情報を発信するといったところで活用されています。

活用事例としては、北海道の帯広にあるNUPKA Hanare様で、地上波のチューナーをつんで4Kディスプレイとしてご活用されている他、街への回遊を促す情報の発信や、滞在価値を上げる取り組みをされています。

「ディスプレイと放映するためのカメラの連携によって情報をいかにお客様へ的確に提供していくかがポイントになってくると思います。」

「スマートシティ実現や、それ以外においても、様々な観光における滞在価値、顧客体験価値のための情報の集約・整理・発信が拡大化できる可能性があります。」

株式会社コプロシステム「集まるためのツールを、地域創生を拡大させるためのツールとして活用できるのではないか」

コプロシステム様はマーケティング全般を扱う企業様です。主に環境分析やターゲティングや基本戦略の立案などのコンサルティングでしたり、プロモーション系の実施、各種マーケティングにおけるシステムの構築なども行っております。

今回紹介するソリューションであるQ-PASS(キューパス)は、宿泊業向けに特化されたサービスではないですが、主にイベントの管理・運営をするサービスです。

特徴としては、誰でも簡単にイベント等の申し込みフォームの作成、データベースがあるため、クラウド上で申込者とメール等のコミュニケーションができます。イベントの受付に対しては、QRコードを読み取ることで、来場管理も可能。

活用方法として、昨今のコロナ禍において引き合いが増えてきたのは、夏祭りや花火大会などの地方イベントでの活用です。申込制のイベントに対し、参加者の制限をするために活用されていたりします。

「本来的には集まるための展示会システムですが、それをお祭りや花火大会など地域のためのイベントにも拡張し、活用できるのではないでしょうか。」

メーカー様からソリューションの説明と、ホテル事業者様が活用できるのはないか?という観点でのご提案をいただいて第2部へ移行します。

ここからは宿泊事業者様から、現状と解決したい課題点や将来的になりたい姿についてご説明いただきます。

紅鮎「将来的には選ばれる側から選択する側へ」

紅鮎さま滋賀県長浜市(滋賀県の北東部)奥びわ湖畔に位置した老舗旅館様です。コンセプトとしてはちょっと贅沢な田舎のおばあちゃんの家のような旅館として運用されています。

現状の課題として、外からの視点と深堀する思考が薄れてきているため、長浜・周緑部の魅力はなんなのか。なぜ観光客が途切れないのか。を客観的に考えることを課題とされています。

琵琶湖は観光資源で価値あるものという意識が、まだまだ地元の方達と共有されていない事から、長浜観光協会が抱える問題点についてお話しいただきました。

特に、観光素材の整理、インフラの未発達などの地域の現実問題、現状を客観視するためのデジタル活用など課題点が挙げられております。

将来的なビジョンとしては、「選ばれる側から選択する側へ」・デジタル技術を活用し、個との出会いとの近道を図りたいとお話いただきました。

「琵琶湖の観光資源としての魅力をお話いただきました。問題としては、観光素材の整理、イベントの整理、過去の成功体験、将来的なビジョンが描き切れていない、過疎などの現実問題などを挙げていただきました。」

「これからの考え方として大事だと思ったのが、選ばれる側から選ぶ側へならなくてはいけないということです。さらには交流人口、そして関係人口を増加させていったうえでの定住促進に繋げていきたいかをお話いただきました。」

新井旅館「古き良きだからこそ残しておきたいものもある。スマート化に踏み込めない懸念点があります。」

新井旅館様は創業明治5年、本年で150周年を迎える旅館様です。敷地内に点在する建物群のうち15棟が登録有形文化財とされており、竣工当時から姿を変えずに、フルスペックのサービスを継続し運営されております。主に、古き良きを求める顧客層の方々に愛されている施設です。

生産向上のために、多くの旅館・ホテルが、部屋食を食事処に変えたり、布団の上げ下ろしをなくすためにベッドにしたり、転換していっているなかで、新井旅館様は、古いスペックを残し、従来のやり方を持続できるのであれな、旅館の持続化として示していきたいと考えられております。そのための、フルスペック運営として継続されています。

しかしながら、コロナ禍でお客様も減っており、フルスペック運営ゆえの簡単に解決できない問題を抱えていることを課題とされています。

様々な施策がありますが、古い旅館だからこそ、実現できる顧客価値の向上もあると思います。スマート化することにより、顧客満足度が下がるケースがあるのではないかと、なかなか効率化、省人化に踏み込めない懸念点をお持ちです。

リゾートトラスト株式会社「地域の方々との連携・提携をしながらお客様へ提供できるメニューを増やしていきたい」

リゾートトラスト様は名古屋で発祥した創業49年を迎える国内会員制リゾートホテルの運営を中心とした企業様です。

スマート化ということで1人1人の生産性を挙げていくことに非常に注力されております。すでに導入されているスマート化としては、スマートチェックイン、スマートチェックアウト車番認証(車両ナンバーを読み取り、車寄せ到着時点で顧客名を把握)、大浴場の混雑管理、自動精算機などの取り組みをされています。

コスト削減というより、お客様の利便性の向上、付加価値の向上に重きを置いていらっしゃいます。

やりたいけどなかなかソリューションが見つからないこととして、館内清算の一元化や、顧客の位置情報把握があるようです。

また、クローズドの世界づくりを目指して運営していたため、地域連携が苦手な分野。お客様へ地域の外での体験やアクティビティの提供などの地域連携が欠かせないとお考えです。

将来的には地域の方々と連携・提携をしながら、お客様に提供できるメニューを増やしていきたいとお話いただきました。

アライブ・ホスピタリティ・デザイン「デジタル活用し、便利さ不便さをあきらかにしていきたい」

アライブ・ホスピタリティ・デザイン様は、ホテル・スパのコンサルティングや運営の受託している企業様です。

中分類での課題感として、素材の掘り起こし、連携と発信、予算、動かす人、検証の5つが挙げられました。

素材の掘り起こしですと、地元の方々からして「あたりまえ」となってしまった観光資源の良さに気付けていないのではないかという部分。自分達の魅力発信がなんなのか分からないという話です。他の施設様でも同様な課題がありましたので、業界として抱えている共通の課題だと思います。

また、誰とどういう風に連携し、どのようなスピード感で動くのか。インフラ問題も考えられますし、どことパートナーシップを結ぶのか連携部分の課題点もございました。

予算の部分でいうと、莫大にお金がかかるものや、スマート化においてお金がかかるもの、すぐにできるものなど、予算の壁がある事。またそれを動かす人や、動く人数の確保の点。

点を線に、日常と非日常、デジタル活用による便利さと不便さを明確化していくことがこれからの方向性としてご提示いただきました。

本研究会のまとめ「観光資源関連と観光の将来のクローズアップを」

各メーカー様、施設様からのプレゼンテーションをいただいたあと、徳江氏の本研究会のまとめとします。

メーカー様からは、内部のみならず外部からの対応。QRコードのさらなる活用。スマートシティ実現のための情報集約・整理・発信。集まるためのツールを祭りなどのイベントへの拡張がありました。

施設様側からは、大きく2つにわかれました。

1つ目としては、観光資源関連として、

  • 美術館運営
  • 観光素材の整理、イベントの整理
  • 地域の素材の良さを地元の人が知らないという現状に対して、どのように知らしめていくかの対応。
  • 更には誰と連携と発信をしていくべきか。

2つ目は、観光の将来として、

  • 広域連携、他社との連携によるメニュー増
  • 選ばれる側から選ぶ側への仕掛け
  • 交流人口・関係人口
  • 少人化をしつついかにエコ=スマート化に繋げていくか
  • その背後にある予算の問題

といったことが見えてきました。

本日出てきたご意見の中で、観光資源関連と観光の将来といったところは、かなり大きくクローズアップできそうです。

事後課題として、本参加メンバーの話と徳江氏の総括を踏まえ、宿泊施設の「5年~10年後にありたい姿」を描いてくる課題が与えられて本研究会は終了となります。

東洋大学 国際観光学部 准教授
徳江 順一郎(とくえ じゅんいちろう)

■上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了。
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザインの事業等を手掛ける。2011年に東洋大学国際地域学部国際観光学科に着任。ホスピタリティの理論科目、ホテル経営関連、ブライダル関連の科目を担当。
■専門分野:ホスピタリティ・マネジメント、経営学、商学
■著書・論文等:『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティ・イノベーション』 『ホテルと旅館の事業展開 [創成社]』『ホスピタリティ・デザイン論 [創成社]』 『ホスピタリティ・マネジメント[同文舘出版]』 『ホテル経営概論[同文舘出版]』等 著書・学術論文多数

徳江 順一郎氏

 HCJ 最新情報案内

セミナーやイベント、来場登録、招待状など
HCJの最新情報をメールにてお届けします。

ご登録はこちらから

Secured By miniOrange