スペシャルインタビュー・対談

ペシャルインタビュー
割烹「伊勢 すえよし」 
田中 佑樹 氏

土地と食材のストーリーを食べる人につなぐ

故郷、三重の生産者を訪ねて歩き、自ら探し出した食材を、料理の形で食べる人に伝える田中シェフ。市場に頼らない物流の発達やSNSの発展など、現代的なインフラを駆使しながら、新たな表現を目指す考えの源泉を聞きました。

田中 佑樹氏
プロフィール


田中 佑樹氏
1988年三重県出身。日本料理屋を営んでいた父に幼い頃から料理の手ほどきをうける。専門学校卒業後、老舗料亭「菊乃井」で研鑽を積み、24歳からバックパッカーとして世界一周の旅に出る。15カ国以上を巡り、地元の食堂で郷土料理を学ぶうち、日本の食材と土地の結びつきへの関心を深め、帰国以来、精力的に生産者を訪ねて回っている。2015年に割烹「伊勢 すえよし」をオープン。顧客とともに三重県を訪ねるスタディツアーほか、消費者と生産者をつなぐ活動にも取り組んでいる。

材が持つ産地のストーリーを料理に活かす

2021のRED U-35に挑戦したとき、「ごちそうの再定義」というコンセプトを提案しましたが、土地を想い、土地の食材を活かす、「ご地想」を作りたい、という思いで今も料理に向き合っています。
そう考えるようになった原点は、20代の半ばに経験したバックパッカー旅行にありますさまざまな国をめぐり、その土地のレストランで修行をするなかで感じたのは、食は文化であり、文化とは土地や気候に根ざしたものだ、ということでした
そのうえで改めて、自分が取り組んできた日本料理のことを考えてみると、自分が知っているのは食材が「とれたあと」のことだけで、どこでどんな食材がとれるのか、なぜそのように調理をするのかなど、知らないことがたくさんあったのです。そこで各地の生産者を訪ねて歩くことにしたのですが、初めて訪ねた農家さんで1日白菜の収穫を手伝ったら筋肉痛になってしまい、さらなる衝撃を受けました。自分は、食材がまな板に乗るまでのストーリーを知らなすぎる。そこから、生産者さんを訪ね、食材のストーリーを知った上で料理に活かすスタイルが生まれたのです。
ただ、これは僕に限ったことではなく、僕と同じような世代の間ではこう考える人も増えているのではないかと思います。かつては築地市場に日本中から最高の食材が集められ、そこをベースに料理の世界が広がっていましたが、個人的にはそういう機能を持っていた築地が移転したのも象徴的なできごとのように思います。今や宅配便で産地から直接食材を取り寄せることもできる時代。単に「質のよいもの」より、ストーリーを知った上で選ぶ時代になっているのではないでしょうか。

田中 佑樹氏

「表 現」を通じて地域を救うヒーローになれるのが料理人

料理人とは、自分の「こうしたい」という思いを皿に載せる表現者だと思っています。僕自身が皿に載せたいのは「三重」。そうやって生産者の思いをお客様に伝え、食べたお客様の思いを生産者にフィードバックすれば、今度はそれが「次はこういうものを作ろうか」という生産者のやりがいにもなります。生産者自身がおいしさを発信するのは難しくても、料理人にはできる。そのことで消費者と生産者につながりが生まれれば、土地の食材が廃れずに維持される。地域に根ざした活動を行うことで、料理人はヒーローになれるんです。
最近は「○○がとれなくなった」という食材の危機もよく耳にします。おいしいものが「ずっとある」と思うのは間違っているのでしょう。そんな局面でも料理人にできることがあります。たととえば、アワビがとれなくなったのなら、増えているのに利用されていないウツボの美味しい食べ方を考える。いわば「スポットライトを当てる食材を変える」のです。自然界の食材ついてはネガティブな話題も多いですが、宝になる食材もたくさんある。スポットライトを変えることでヒーローになれれば、表現者としてもとても楽しいことだと思います。

田中 佑樹氏

信は、より自由に表現し、多くの人に届けるための武器

さまざまな人が幸せになり、サステナブルであるためには、利益を出すことも重要です。そのために今の自分は、経営者としても成長する必要があると思っています。まずは活動を支えるチームをしっかり作ることが当面の課題ですね。
また、昔の料理人は料理を通じて目の前のお客様に満足していただければよかったかもしれませんが、今はその他の表現も重要です。SNSで「おいしそうな写真」を載せることからも、逃げては行けないと思っています。個人的には、SNSは接客ツールだと思えばいい、と考えています。我々は、食事中のお客様に水を注ぎに行くとき、料理の減り具合や会話などから接客のきっかけを探していますが、SNSはそれと同じような「お客様との接点」。お客様の反応を知り、「おいしかった」というコメントに返信することもできるわけで、使いこなすことができれば表現はより自由になり、客席数以上の人に広く届けることができるのです。
現在は、店での料理以外にも、三重の高校生と一緒にメニューを開発する「未利用魚プロジェクト」、浄水器メーカーと行う「だしテイスティングプロジェクト」など、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。料理だけに集中し、ずっと料理をしていられる料理人は本当に凄いと思うのですが、自分は料理以外のこともやりたいタイプ。さまざまなことに挑戦し、「表現」の幅を広げていきたいと考えています。

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