スペシャルインタビュー・対談
スペシャルインタビュー
オーベルジュ オーフ シェフ
糸井 章太 氏
料理が果たせる新しい役割を発信する
RED U-35 2018では、史上最年少の26歳でグランプリを受賞し、現在は廃校を有効活用したオーベルジュで腕を振るう糸井章太シェフ。現代の料理人が担う新しい役割について、糸井シェフならではの考えを語っていただきました。

糸井 章太氏
1992年京都府生まれ。調理師専門学校を卒業後、フランスに留学。アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」で研修を受け、「メゾン・ド・ジル 芦屋」、ブルゴーニュの1つ星「レストラン・グルーズ」を経て、RED U-35 2018にてグランプリ(RED EGG)を受賞。2019年、経済誌Forbes Asia主催「30under30 Asia 2019」受賞。2022年、アメリカ・カリフォルニア州の3つ星レストラン「マンレサ」「フレンチランドリー」で研修し、2022年7月に石川県小松市観音下で「オーベルジュ オーフ」シェフに就任。
自 然に、素直に作ることが「血の通ったサービス」につながる
子供の頃から純粋に食べることが好きで料理人になった僕にとって、料理は「趣味」。少しでも理想の料理像に近づけることを目指し、夢中になって作っています。そうやって日々取り組んでいると、頭の中で考え、試作してひと皿の料理になったとき、想像していた味を超えてくることがあるんですよね。一番うれしいのはそんな瞬間であり、その味でお客様に共感してもらえたら最高だと思っています。
自分が目指す料理、素晴らしいと感じるサービスをひと言で言うなら「血の通ったサービス」ということです。どんなに見た目に美しく美味しくても、お客様に届かなければ意味がありません。目指したいのは、本当にお客様を喜ばせることができる料理やサービスです。それは必ずしも高価な食材、高価な器を使わなくてもできることで、むしろ料理人としてのエゴを出すのではなく、あくまで自然に、素直に作り続けることが大事だと思っています。そのためには自分をはじめスタッフが楽しく働けることも不可欠で、今はそうした環境を作ることも自分の仕事だと思っています。

料 理を作るだけでなく、「料理を作って何をするか」を考えたい
現在の店がある観音下(かながそ)に来て半年が過ぎました。店は廃校となった小学校の校舎を活用したオーベルジュで、官民連携事業として立ち上げたものですが、あくまでトップレストランになることを目標にしています。
地元の美味しい食材もたくさんありますが、特別に地産地消を意識するというよりは、あくまで自然に「ここで料理するのであれば、近くで採れる食材で表現をする」という感覚でいます。逆にいえば食材を活かすために必要なのが技術や知識だと思います。料理人なら同じことをどんな土地でもできる必要があり、「ここでしか料理を作れない料理人」になってはいけないと常日頃考えています。
今はこうした官民連携をビジネスモデルとして確立することに興味があります。昔の料理人は「よい料理を作る」だけでよかったかもしれませんが、今は「よい料理を作って何をするか」が大事なのではないかと思っていて、こうしたチャレンジによって料理人がどう見られるのかを知りたい。料理人が大きな役割を果たせる仕事だということを世の中に知らしめたいし、そのことで、料理人という仕事をよりよいものにしていきたいと思うのです。
そうしたことを考えるようになったのには、やはりRED U-35に挑戦した経験も大きかったと思います。RED U-35は、若手料理人にとって初めて「自分の考え」を表現する場。そこで改めて考えたときに、自分は「料理を作ることが世の中にどんな影響を与えるのか」に興味があるのだ、と気づいたように思います。

地 元のシンボルになるようなレストランを目指して
今のチャレンジを成功させるため必要なこととして、何らかのタイトルを獲得することも目標にしています。僕個人としてではなく、店として何らかの評価を得たい。レストランを目的に来るのでなければなかなか足を運ばない場所だからこそ、そうしたタイトルも必要だと思うのです。
地域の方との交流も進めています。地元の小学生を対象にした食育授業、近隣の皆さんとの餅つき行事などのイベントのほか、地元の方にパートタイマーとして働いていただくことで雇用も生み出し、またそういう方々に、お友達との食事に利用していただいたりもしています。今後継続的にお客様に来ていただくために、ローカルシェフとのコラボレーションイベントなども行っていく予定です。
さらにはコロナ後の社会を見据えて、インバウンドの誘客にも力を入れていきたいと考えています。幸い、店から車で30分の場所にある小松空港には国際線も開通しています。発信については、本社スタッフのほか、小松市の観光課などとも連携しながら作戦を練っていきたいですね。
目標は、地元の方にとってシンボルになるようなレストランであること。そのためにレストランをやっている、というのは珍しいかもしれませんが、そのスタイルを自分で作っていければと思っています。