プログラム

敬称略/社名50音順

2月15日(火)10:50〜12:30
御三家ホテル総料理長が語る! アフターコロナにおけるホテルでの飲食の価値とは
「新しい生活様式」と言われるように、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、食の提供方法は多様化しています。ホテルでも、テイクアウトやデリバリー、 EC サイトなど新たな取り組みをされる施設が増えており、自宅でもホテルの食事を楽しめるようになりました。そのなかで、ホテルだからこそ提供できる食事の体験価値とはなにか今こそ再定義し、宿泊業界に向けた発信を行う。

パネリスト

ファシリテータ

  • 日本能率協会 理事
    産業振興センター ディレクター 小宮 太郎

パネリスト プロフィール

敬称略/社名50音順

杉本 雄氏

帝国ホテル 東京料理長 杉本 雄(すぎもと ゆう)

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1980年、千葉県生まれ。2019年4月に第14代東京料理長に就任した杉本雄は、1999年に料理人としてのキャリアを帝国ホテルでスタートした後、2004年に退社して渡仏し、帰国までの13年間をフランスで過ごしています。フランスでは、ブルターニュのビストロを皮切りに、厨房だけでなくホールの接客サービスなどさまざまな経験を積みました。
1835年創業の歴史あるホテル、ル・ムーリスでは、ヤニック・アレノ、アラン・デュカスという名料理人のもとでシェフを務め、同ホテルのメインダイニング(3つ星)では責任者の役割を担いました。 ※帝国の歴代料理長の中で最年少(当時38歳)。

コロナ禍で
新たに行った取り組み
中島 眞介氏

ニュー・オータニ 取締役 調理部長中島 眞介(なかじま しんすけ)

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中島 眞介(なかじま しんすけ、1958年11月17日 - )は、愛媛県宇和島市出身のパティシエ。1977年にホテルニューオータニ入社。シェフパティシエを経て[3]、2010年から調理部長(総料理長)を務める。2004年より開発した「スーパーシリーズ」で多くのスイーツをリリースしている。2009年3月に東京で開かれた「世界パティスリー 2009」では審査員を務めた。栗のエキスパートである。 ※パティシェであるが、ホテル全体の料理を監修・指揮し、ホテルニューオータニ内では中島氏がプロデュースする麺処NAKAJIMAがある。

コロナ禍で
新たに行った取り組み
池田 順之氏

ホテルオークラ東京 執行役員・洋食調理総料理長池田 順之(いけだ よしゆき)

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池田 順之は、1978年にホテルオークラに入社後、洋食調理の基礎を学び、入社6年目にはヨーロッパに渡りホテルオークラアムステルダムのシエルブルー(現ミシュラン二ツ星レストラン)にてアシスタントシェフを務めるなど、フランスを中心とした海外研修にて、本場のフランス料理の技術を身に付けてまいりました。
その後、フランス料理「ラ・ベル・エポック」で研鑽を積み、代々の料理長に受け継がれてきたオークラフレンチの味を基本に、長年の経験により身に付けた素材に合わせた伝統的な調理技術と感覚を生かし、フランス料理の命でもあるソースにこだわった料理の数々を提供してまいりました。また故小野正吉の味を基本とするオークラフレンチの王道を伝えるべく、後進の指導に情熱を注いでおり、この度、洋食調理総料理長就任の運びとなりました。

コロナ禍で
新たに行った取り組み

パネリスト インタビュー

帝国ホテル 東京料理長
杉本 雄氏のインタビューを
ご紹介します。

コロナ禍により変えること・変えないこと

コロナ禍で食の提供方法がより多様化している中、変えること・変えないことについて杉本さんのお考えをお聞かせください。

コロナ禍で一番考えさせられたのは、当たり前であったことが当たり前にできなくなったことです。お客様で溢れていることが当たり前であったホテルがそうでなくなり、お客様がいらっしゃらない、がらんとした状態になりました。お客様がいない状態になると、料理も提供しませんから今まで仕入れていた食材が必要なくなる。市場での取引もしなくなれば、生産者も作らなくなる。一度作らなくなると、同じ品質のものが市場に出てこなくなり、今まで当たり前に手に入っていた商品やもの、食材が手に入らなくなる状況が起こりました。

当たり前のありがたさを痛感しています。

このように今まで考えもつかなかったことが普通に起きる世の中になったとき、それは自ずと限りある食材をどう持続的に使っていくのかを考えざるを得ないタイミングだったのだと思います。時を同じくして世の中にSDGsの発信が積極的にされるようになり、2030年の持続可能な開発目標に向けた取組が加速していきました。これは偶然ではなく必然で、世界が向かうべき方向が示されたこととコロナは同じタイミングで起こったのだと私は思います。

それが食の提供方法を変化させる大きなきっかけにもなりました。

そうですね。テイクアウト然り、冷凍食品然り、時代によって多様化する食のあり方が提示されました。しかし、食材がありそれに我々が手を加えお客様にレストランで提供されるのと、パッケージされて提供されるのと、私はそれほど違いはないと思っています。なぜなら食材をいただく、命をいただくという点においては一緒だからです。コロナであろうがなかろうが生産者の思いや、つくり手の考え、食材をいただき、ものをつくっていることに変わりはありません。私はヨーロッパで13年ほど仕事をしていましたが「いただきます」の文化はヨーロッパにはありません。「いただきます」と言って食事を始めるのは日本だけだと思います。それは「“命を”いただきます」ということです。食や料理に対して「いただきます」と思うこと、言葉を発して食事を始めることはこれからも変えてはいけないと思います。それは食を提供する立場としてもこの考え方は同じです。そこには「作る責任、使う責任」があると思っています。

この点が、杉本さんが考える「変えないこと」なのですね。

そのためには学び、食育も大切です。これからも当たり前に「いただきます」と言える子供たちが出てこなければなりません。テイクアウトやお弁当だったら「いただきます」と言わないのか、そうではありませんよね。食材に対する敬意を持つということは、これからも変わってはいけないことだと思います。

非常に広い観点からのお話をいただきました。一方「変えること」についてはいかがでしょうか。

時代に合わせて食の多様化は必要だと思います。我々はここ日比谷で130年以上、フランス料理を主体とした西洋料理を提供してきました。いわゆるラグジュアリーな食です。これからは高価な食材を使用し価格に見合う料理を提供して、その対価を払ってくださる方にご利用いただければいい。」ということではなくなってくるでしょう。お客様が多様化するということは我々も対応していかなければならないということです。我々は今までも時代の要請に応じて、食の提供スタイルを変化させてきました。今の時代は、その変換期に来ているのだと思います。

ホテル業界として今後取り組むべきこと

多様なニーズへの対応が求められるホテル業界にとって、今後必要なことは何でしょうか。

ラグジュアリーを提供することは変わらないですが、ラグジュアリーという概念そのものを再定義することが必要だと思います。その考え方の中心にサステナブルの観点があります。道徳的な観点、無駄を出さない、食材を余すことなく使い切るという観点をどれだけ入れてラグジュアリーなホテル業を営んでいくか。これが今後我々に必要なことであり、目指す食のあり方だと思います。こうした取り組みを我々が率先して行うことで「サステナブルな観点が含まれることがラグジュアリーな価値なんだ」と言われる日本のホテル業界の食のあり方を発信していきたいと思っています。

ラグジュアリーの捉え方を根本から変える視点ですね。

良い食材の、良いところだけが使われて、最上級のものだけを口にできることがラグジュアリーなのではなく、すべてを取り残さず「いただきます」の思想のもとでできあがっている料理、ホテル業が今後必要だと思います。

サステナブルな社会の実現に対する業界の本気度が問われます。

ホテル業は平和産業と言われます。食べてお腹をいっぱいにすること、清潔な場所で寝ることなど本来高い対価を払わなくてもできることです。その中でどれだけ非日常をご提供できるかが我々の仕事です。今まではその非日常だけにスポットが当たってきましたが、これから進むべき道は違うと思います。道徳とラグジュアリーの両輪が回るようにバランスをとることが我々の目指す道だと思います。

具体的にトライされている取り組みがあれば教えてください。

ホテルショップでは40種類から50種類のパンが販売されています。どうしてもパンを作る過程で余る生地が出てしまうのですが、今までは、その余った4~50種類の生地を集めて、焼いて廃棄していました。焼かないとイースト菌が働いて膨らんでしまうのです。しかしそれを我々の技術をプラスして、また一つの他のパンとして再生しています。パンとして最後まで使い切る取り組みです。

パンからパンへ みかんのフレンチトースト

そのためには変えなければならないことも多いのではありませんか。

当然マンパワーも必要ですし、それに費やす時間も増えてきます。それをマネジメントすること、人のマインドを変えることが必要です。「なぜこれをやるのか」それを外に発信する前に中の人間がわかっていなければいけません。我々だからやる意味がある、発信する責任があるんだということをホテル内で共有していなければこの目標は達成できません。自分のこととして取り組まなければ、ただ一部の媒体や発信物で調理を代表する杉本がこうした考えを述べるだけで終わってしまい、本質的な改革にはつながりません。

帝国ホテルとしての誇り・プライドを持ち、取り組みを理解し、なぜやるのかを浸透させることが大切なのですね。

その通りです。「食べられるものをなぜ捨てなければならないのか」ここが本質です。その本質を全員が共通の認識として持つことができれば自発的に考え、動くことができるのです。

サステナブルソルトのアイデアはどこから生まれたのですか?

料理長の仕事として館内の調理部門を見ている中で、それぞれの調理場において食材を形成した際に発生する皮や外側の葉のような多くの端材がある事に気が付きました。例えばジャガイモは皮付きのポテトフライがあるように皮は食べられるものです。しかし多くのジャガイモの皮は捨てられています。ホテルショップ「ガルガンチュワ」で皆様から愛されるポテトサラダはこれからも作り続けていく、大切にしていくレシピの一つですが、ジャガイモのいいところだけをサラダとして活用し、あとはゴミで良いのか?食べられるものをなぜ捨てなければならないのか。食べられるのだから、そこに対して何かアクションを起こし、商品化することによって世の中に発信することが必要だという考えから生まれました。

帝国ホテル サステナブルソルト

現場のロスに改めて注目することでほかのアイデアも生まれそうですね。

原材料として考えた際、ジャガイモが一番安定的に供給されているため、まずは根菜からスタートしましたが、時期によってはイチゴのヘタを活用することもできます。キャベツやレタスの一番はじめに取り除かれてしまう外側の硬い葉も同様です。スーパーなどでお客様のカゴに入る前に捨てられてしまう外葉も、農家さんが大切につくっていることに変わりはありません。スーパーもそれに対してもお金を払って仕入れているのです。考え方は全く同じ、食材に対する敬意です。余すところなく全部使い切るという考え方です。

こうしたお考えに基づいた着想はどこから得られるのでしょうか。

料理長という立場で俯瞰的に全体を見ることができているという点に尽きると思います。各店舗のシェフは、その店舗の売り上げや顧客の満足が最優先です。そのシェフたちを束ねるのが料理長であり、俯瞰的にみることによって見えてくる問題があります。各店舗ではその問題に対応することが難しい場合も多く、横断して中立的に対応することが料理長としての大切な役割であるのだと思います。

利益代表ではないということですね。

そのとおりです。パンの生地を廃棄していたことも、ずっとその現場にいた人間にとっては当たり前のことだったのかもしれません。そこを俯瞰して見るから「これって当たり前ではないよね」という見方ができるのです。こうした立場にいるからこそ、違った視点からの提案ができるのです。

ホテルだからこそ提供できる食事の体験価値とは

「非日常」というキーワードをいただきましたが、ホテルだからこそ提供できる食事の体験価値はどこにあるとお考えでしょうか。

帝国ホテルにおいては、フランス料理をメインに提供しています。では、「フランス料理とは何か」ということを考えた時、明確に定義するものはないと思っています。フランス料理とは、フランスの地方の料理の集合体であり、その地方で採れた食材で料理が構成され、特徴付けされ、そこにシェフの思いがあり、そこでしか作れない料理が展開されています。そこにワインがあれば、ワインも料理に取り入れます。酪農が盛んであれば、チーズやバター、クリームが料理に組み込まれます。こうした一連の料理にはその地域の特性や特色があり、そこにシェフの考え方・哲学があり料理が生み出されていくのです。

さらに深く教えていただけますか。

例えば肉や魚の切り身はステーキにしたり、蒸したり、グリルしたり様々な調理法があります。そこで出た頭や骨や皮からブイヨンを取り、そのブイヨンをベースにしてソースを作ります。そのソースが切り身と一緒に提供されます。これが基本的なフランス料理の精神・考え方です。食材一つに焦点を当て、余すところなく使い切ろうという考えの基にフランス料理は成り立っていると思います。

天使の海老のモダンなサンドイッチ仕立て

礎がそこにあるのですね。

こうした考え方に根ざしたフランス料理を磨き続け歴史を重ねてきた我々が、食に対してのSDGs、サステナブルな取り組みを行うことは自然な流れですし、責任があると思います。元々のフランス料理の本質に組み込まれているサステナブルな考えを活かしながら、ラグジュアリーなものをどう提供していくかだと思っています。

そのお考えをお客様にお伝えする発信の仕方に何か工夫されていることはありますか。

私はよく「啓蒙活動」という言葉を使っていますが、こうしたインタビューや雑誌、媒体で我々の考え方や取り組みを取り上げていただくことで、消費者全体のマインドも変わりますし、そうしたマインドでラグジュアリーホテルを利用する人がどんどん増えていくことが一番の近道だと思っています。

取り組みの中からいくつかご紹介いただけますか。

例えば、サステナブルソルトが商品化に至る前は、私が演出する一夜一組のお客様をお迎えするレストラン「レ セゾン」の個室のプラン“アンティミテ”で、メニュー構成の一つに入れていました。ブレンドのお塩をお客様の前で作り、お料理に添えるという演出です。このときに最初から「これは食品ロスをなくすための取り組みです」などとは申しません。ラグジュアリーな世界で杉本の演出する非日常を味わいたくて来てくださっているお客様をいきなり現実に引き戻すような無粋なことはいたしませんが、全体をトータルで味わっていただいた最後に「実はこのお塩にはこうした思いが詰まっていたのです」という種明かしをします。

帝国ホテル 料理イメージ

テーブルウエアのマットをお客様に選んでいただくこともそうですよね。

はい。テーブルの上に何もない状態でお客様をお迎えし、マットから選んでいただきます。そのマットも、家具を作るときにどうしても出てしまう余り素材を活用し、再プレスし、デザインをお願いして作ってもらっています。

こうした演出は、お客様にとって個室の空間をどのような場にしたいという思いから生まれたのでしょうか。

“アンティミテ”を選び個室にいらして下さるということは「杉本」が対象だということです。「この人の考え方・思いで作られた料理を味わいに来た」という時点で契約が成立していると思っています。つまり、どれだけ杉本の世界観の中に入っていただけるかと考えます。そこでの演出を味わい、作り手の料理に対する哲学や道徳的な考えを共有いただくことが最も個室の空間に求めるものです。

これまで、ホテルの料理長自身のお料理をいただける場は非常に限られていましたよね。

我々のホテルで言えば、半年に一度宴会場で開催していた集いや、レストランを貸し切ったイベントだけでした。しかしそれだけでは、なかなか思いは伝わりません。メッセージを発信している杉本の料理とはどのようなものなのか、その窓口をどこかで作らなくてはという課題は私が就任した2019年の4月からありました。以来、どこかでそうした場を作りたいという話をしながら実現したのが“アンティミテ”のプランです。

確かに帝国ホテルの料理長のように、我々一般人にとっては天井人のような存在の方が何かを発言されても、なかなかお料理とは合致しませんものね。

料理と発言が合致して初めてその世界観に引き込まれるのだと思います。

美味しいのその先へ

帝国ホテルの伝統と杉本さんのオリジナリティの融合についてはどのようなお考えをお持ちですか。

伝統を継承しながら、それを新しい表現として提供しようと努めています。我々が大事に作り続けているコンソメを使いメニューを構成することはもちろんありますが、コンソメスープとして完成しているものを私がそのままコンソメスープとしてご提供することは、今はしていません。お客様との間に杉本との契約が成立している以上、杉本でなければ出せないものをご提供したいと常に考えています。その答えが今はこの“アンティミテ”という形ですが、それは決して伝統を否定しているものではありません。

伝統に敬意を払いながらご自身のオリジナリティを追求されているのですね。杉本さんのお料理を召し上がった方から「楽しい」という言葉を聞きます。味も然り、常に驚きがあるメニューで、ハートをわしづかみにされたと。

私が常に意識しているのは、帝国ホテルにいらして下さるお客様に美味しいものを提供することは当たり前だということです。それを裏切ることは許されない。それ以上のものをご提供することが我々に課されています。お客様から「美味しかったよ」と言っていただくことは我々にとっての喜びではなく当たり前のこと、そこがゴールではないのです。「楽しい」という言葉は美味しくなければ出てこないですよね。これこそが我々のホテルで味わっていただける付加価値であり、そこでしか味わえないものだと思います。

「感動」を提供するということですね。「美味しかったよ、ありがとう」は当たり前で、お客様の想定を超える感動に意義があるのですね。

お客様から色々なお声をいただきますが、中に「フランス料理に対する考え方が変わった」というお言葉がありました。仕事上の会食でもプライベートでも何度もフランス料理を召し上がっているであろう方からいただいたこの言葉。「美味しいのその先」をご提供するのが我々の使命なのです。

最後に、調理に携わる方やホテルの料飲部門で働く方に向けたメッセージをお願いします。

我々の初代会長である渋沢栄一翁が「論語と算盤」と言った言葉がまさにこれからも業界に求められることだと思います。論語とは道徳的なこと、算盤とはビジネスです。この二つが両輪となり、しっかりかみ合っていなければ健全な社会、健全な企業は作れない、生きていけないと渋沢翁は説きました。だからこそ渋沢翁が携わった企業が500も600も健全に動いているのです。これは紛れもない事実であり、この言葉は実証されているのです。
我々が食を提供していく中で、ビジネスと道徳的なもの、食におけるラグジュアリーな部分と道徳的な部分は絶対的に一緒にならないと、食の進むべき道はないと考えます。この渋沢翁の精神は我々の中に色濃く残っており、料理だけではなく普段私たちが決裁書一つを切るときにも問われます。

いたる場面でこの思いに立ち返っておられるのですね。

我々のビジネスは、食事も寝ることもすべて普段何気なく手に入れられるものを、数倍、数十倍もの対価をいただき提供するものです。その喜び、プライドはこれからも持ち続けるべきだと思います。その誇りの進むべき方向が大切なのです。道徳的なことを加味したものこそがこれから求められるラグジュアリーだということです。
それだけ価値のあるものを我々は提供しているのだという点は決して忘れてはいけません。そして、こうした営みを健全に行うには、食を司る立場、食材がなくては何もできない我々としては、生産者の方々や、命を与えてくれる自然の恵みに敬意を表すことは絶対的に必要なのです。それを理解したうえで、これこそが我々が提供するホテルの食、ラグジュアリーなんだというものはこれからも追及していきたいと思います。

杉本さんの広く深いお考えをご教示いただいた貴重なお話をありがとうございました。

ニュー・オータニ 取締役 調理部長
中島 眞介氏のインタビューを
ご紹介します。

コロナ禍で食の提供方法が多様化している中、変えること·変えないことをどうお考えでしょうか 

コロナ禍の中、レストランのマイトング制(※)を導入しました。個別に料理を盛り付ける方法もあったのですが、ビュッフェはお客さまの好きなものを好きなだけ取るという喜びを搾取してはいけないと理由でマイトング制にしております。お蔭さまでマイトング制にしたことでゲストの満足度も高く良いお言葉をたくさんいただきました。このマイトング制が新しいビュッフェのスタイルになっていくのかなと感じます。 ※マイトング制とは・・・従来の共有のトングを使い料理を取るということをやめて、個人用のトングを設置し、都度使用していくこと。

コロナ禍に入る前より、婚礼などでは、4皿メニュー(前菜・メイン・ばらちらし&すまし汁・デザート)を導入していました。おいしいものを1皿に集中して、品数を減らすことで、婚礼列席者の会話を遮ることなく楽しめます。フルコースに代わる新しいスタイルを確立できたと感じています。その後コロナに入り、サービススタッフとお客さまとの接触をなるべく避けるためにも、この4皿メニューは有効に機能しました。今後はコロナ後も、この4皿メニューの内容を研究し、さらに昇華させていきたいと考えています。

ホテルニューオータニ料理イメージ1

食事、お酒を介する場がビジネスに与える影響はどのようなものがあると思われますか

お酒は食事にとって切っても切れないものであり、料理とお酒のマリアージュは非常に重要と感じています。一方で現在の若年層は、お酒離れが進んでおり、酔っぱらうことがかっこ悪いなどと一部言われているところがありますが、長い目で見たときには、ノンアルコールドリンクの開発も、進めていかねばならないと感じています。かつてはオレンジジュース、ウーロン茶というもので対応していたノンアルコールドリンクですが、世界はもっと進んでいます。まるでワインの味と同じようなノンアルコールカクテルや、ジャスミン茶と炭酸などを合わせて、シャンパーニュのような飲み物に昇華させていくなど、お客さまの期待に応えられるよう、料理はもちろんですが、ノンアルコールドリンクの開発にも力を入れ、あらゆるリクエストにも対応できるようにしたいと考えております。

長く残っている料理は、おいしいものであり、愛され続けている料理だと思います。その料理をホテルの歴史とともに引き続き大事にしていきたいです。

ホテルだからこそ提供できる食事の体験価値についてお考えをお聞かせください

ホテルは様々なレストランが入っており、色々な味を楽しめるといえばビュッフェです。当社では、和洋中の味がビュッフェレストランで楽しめるように常に構成をしています。また、コロナ禍で、非常に人気が高かったのが、スーパールームサービスです。コロナ期間中で、レストランがクローズを余儀なくされてきた中で、どうすればお客さまのお役に立てるのかを社内で協議をした結果、お部屋の中であれば、安心して、お食事やお酒を愉しめるのではないかということで、館内和洋中のメニューと、レストランのカクテルやドリンクをすべて集めて提供できる体制を構築しました。これはホテルならではの体験価値だと思います。

体験価値、満足度が高い企画といえば、海外で活躍する日本人シェフフェアだと思います。2015年5月に開始したこの企画は、海外で活躍している、日本人シェフを、シェフを含む従業員スタッフも招聘して、フェアを行う企画です。直近では、10月に開催した、シャンパーニュ地方の2つ星「RACINE(ラシーヌ)」のオーナー、田中シェフと、そのスタッフとシャンパーニュメゾン「ダヴィットレクラパール」のペアリングが楽しめるフェアを開催しました。コロナ禍で不安な中、準備を進めていましたが、ちょうどタイミングよく、宣言解除となり、東京・大阪・博多の3つのニューオータニホテルズにて開催をしました。コロナ禍で海外旅行もいけない中で、本物の味を楽しめるということで、お客さまにもご満足いただけました。これもまさに、ホテルならではの体験価値なのではないでしょうか。

ホテルニューオータニ料理イメージ2

業界として今後取り組んでいくべきことにはどのようなことがございますでしょうか

環境の変化、食材の高騰や食材が枯渇していく中で、SDGsに寄り添う新しい料理を模索していかねばなりません。この問題にはゴールはないと思います。例えば、代替肉が世界でも普及してきている中で、我々の使命は、それをいかにおいしく、通常のお肉と同じ味わいで、ご提案できるように進めなくてはならないと思います。それには、我々1企業が努力しても限界がありますので、業界としても一致団結してまた他業種との意見交換をしながら未来に向けた食の在り方を常に意識して取り組んでいかねばと感じます。

宿泊業の経営者/シェフに向けたメッセージを是非お願いいたします

無駄をなくし、食材を大事に、環境に向き合って 業界全体で新しい食文化の構築を頑張っていきましょう。

ホテルオークラ東京
執行役員・洋食調理総料理長
池田 順之氏のインタビューを
ご紹介します。

コロナ禍で食の提供方法は多様化している中、変えること・変えないことどうお考えでしょうか?

食の安全・安心が基本になります。コロナだから特段変わったわけではなく、当たり前の対応をしています。
また、肉・魚・野菜の仕入れについては日本全国を俯瞰して捉え、旬で新鮮なものを取り入れ、素材の良さ、旨味を引き出していくことは、代々の料理長から受け継がれたものです。またその時々の調理器具にあった調理法を探っていくことが大切と考えており、ストーブからコンベクションオーブンに代わり、冷凍技術も格段に進化した現代の調理器具を生かし「美味しい」とご納得いただける製品に作り上げていくことに日々挑んでいます。

ホテルオークラ東京料理イメージ1

お酒を介する場がビジネスに与える影響はどのようなものがあると思われますか?

接待でご利用頂いたり、パーティーが開催されたり、またご結婚披露宴など、多種多様なシーンでのお客様のご要望にお応えし、ゲストにより快適で和やかな、そして打ち解けた心地よい場と雰囲気をご提供していかなければなりません。そして主催者様も含め皆さまにより多くの感動と感激を感じてもらえるのが、まさに料理とお酒であると考えております。
楽しい会話には多少の酔いも必要でしょう。たかがお酒ですが、されどお酒です。食事のおいしさにもお酒の影響はありますね。

ホテルだからこそ提供できる食事の体験価値についてお考えをお聞かせ下さい。

フランスの料理ガイドブックは100年以上の歴史があり、グルメたちの指標に値するものがあります。評価基準はいたってシンプルで、
1.素材の質
2.料理技術の高さと味付けの完成度
3.コストパフォーマンス
4.常に安定した料理の一貫性
であります。宿泊施設も同様で、
1.安全性の高さ
2.施設の豪華さ・立地の良さ
3.コストパフォーマンス
であります。
ホテルには、宿泊施設とレストラン施設を併設されているからこそご提供できるサービスがあり、遠方からお越し頂き旧交を温めて頂くシーンや、ご親戚との会食、観光を織り交ぜたりと多目的にご利用頂けます。
私は感性とインスピレーションでメニューを書いていますが、基本となるソースなど変えてはいけないものについては昔からのレシピを守っています。素材が変われば味が変わりますが、作り方を変えずに伝統の味を安定させています。
私が総料理長を担っている間はオークラの味を継承し、いつものオークラの味を提供してまいります。それがまさに守るべき伝統であると思っています。総料理長になった時、どうしていくかのビジョン・ミッションは自分自身で考えました。オークラ一筋で経験を積んだからこそ、先人から教わってきたことを正しく引き継ぐと決心しました。
オークラの味を求めるお客様がいらっしゃるかぎり、自分の役割はそこにあると考えています。

ホテルオークラ東京料理イメージ2

業界として今後取り組んでいくべきとはどのようなことがございますでしょうか?

コロナ禍から脱出することは難しいと思われますが、ウィズ・コロナという観点から安全・安心を全面に、ご利用頂く全てのお客様にクオリティーの高い味やサービスをご提供していくことが求められると思います。また、全国の食材生産に関わる方々と連携することも大事です。フードロスの取り組みとして無駄な在庫や不要な食材の調達などを減らし、いわゆる、頭から尻尾まで使い切る創意工夫が不可欠ではないかと考えております。

宿泊業のシェフもしくは料飲部門に向けたメッセージを是非お願いします。

先程の質問の答えと重なるかも知れませんが、我々の責務としてはお客様にいかに喜んで頂けるかと言うことに尽きると思います。お客様の喜びへの道筋に正解はありません。調理部門ならばいかに美味しい料理を提供するかはもちろんですが、お客様のご要望にどこまで対応できるか頭を柔らかくして考え、そのお客様のための一皿を提供できればと思っています。基本を変えなければ、そこから創意工夫をするのは自由だと考えます。
料飲部門では出来た料理をいかにスマートに心地よくサービスするか、つかず離れずの距離を保ち、どんな些細な事も見逃さずにお客様に快適な時間と食事の場を提供することが役割だと思います。
つまり私が常日頃から言っている「誰のための料理なのか? 何のための料理なのか?」を考え抜くことが真髄だと思います。