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「外食産業最前線」
居酒屋のランチ弁当が多い日は100個近くも!その成功の秘訣とは? 炭火はじめ#2

神奈川・相模原市の橋本にある居酒屋「炭火はじめ」は、コロナ禍の営業時自粛にともなって始めたランチの弁当販売で、多い日には100個近くも売れる成功を収めた。その成功の秘訣としては、主に3つの注目ポイントがある。
①ワンコインの500円で勝負!
今回のコロナ禍では多くの飲食店が新たにテイクアウトの弁当販売を始めたが、その際、「いくらの値づけにするか」は悩みどころであり、また、売れ行きを大きく左右するポイントになった。そうした中で、「炭火はじめ」がランチ弁当で打ち出した価格は、ワンコインの「500円」。「SNSにアップされているテイクアウト弁当を検索したら、ワンコイン弁当の情報が多く、ニーズが大きいと思いました。正直、持ち帰り弁当の専門店などもある中で、これ以上の値段で売る自信が無かったというのもあります」と岡田昌也店長は謙虚に話すが、まず、この価格戦略が功を奏したと言えるだろう。
飲食店のテイクアウト弁当の中には、1000円を超えるような高価格帯で成功している事例もある。しかし、テイクアウト弁当の大衆ニーズ、つまり、より大きなマーケットの価格帯は確かに500円前後。その大衆ニーズのど真ん中を攻め込む形で勝負して成功したのが、「炭火はじめ」のワンコイン弁当だ。
②安さだけでなくオリジナリティーも工夫
「炭火はじめ」は、ランチの弁当販売で多くのリピート買いも獲得。それは、単に安いだけではなく、弁当の内容も魅力的だったからに他ならない。岡田店長が特に強く意識したのは、「他では食べられないもの」であること。テイクアウトの弁当もオリジナリティーで差別化したのだ。
同店のワンコイン弁当は、「肉」と「魚」の2種類を販売。主菜と副菜をご飯の上に盛り込む「丼」スタイルにした弁当で、基本的に毎日内容を変える。例えば、「肉」では「塩唐揚げ丼」「鶏とたけのこの親子丼」「豚バラチャーシュー丼」「ローストビーフ丼」「煮込みハンバーグ丼」「塩ダレ豚丼」「タンドリーチキン丼」、「魚」では「海鮮ねばねば丼」「ゴマ漬け海鮮丼」「鱈の竜田揚げおろしポン酢丼」「鱈の黒酢あんかけ丼」「鯛の出汁とろろ丼」などを販売。商品名からもオリジナリティーが感じられる丼が多く、中でも一般的には醤油味が多い唐揚げを「塩味」にして独自の美味しさを工夫した「塩唐揚げ丼」は、ワンコイン弁当のヒット商品になった。このようにオリジナリティーを工夫した弁当で購買意欲を高め、さらに日替わりで内容を変えることで利用客を飽きさせないようにしたのも成功のポイントだ。
③仕入れの工夫で利益を確保
「炭火はじめ」は、ワンコイン弁当を販売する上で仕入れも工夫した。例えば、魚であれば、「魚種は指定しないので、その日、安くて良いものを届けて欲しい」と卸業者に依頼。コロナ禍でも前向きに頑張っている同店に対して、卸業者も積極的に協力してくれた。また、弁当の販売にともなって見直したのが「お米」の仕入れ。これまでの居酒屋営業では、使用するお米の量はそれほど多くなかったが、弁当の販売となると話は変わる。お米はメイン食材で、その仕入れ値が原価率を大きく左右することになる。そこで、色々と調べ、地元のスーパーで割安にお米を購入できることを発見。お米の仕入れ値を下げたことが、弁当販売での利益確保に大きく貢献しているという。
一方、弁当に使用するテイクアウト用の容器に関しては、少し割高でも色が「黒」のものを選んだ。「白」の容器の方が安かったが、「黒」の容器の方がちょっとした重厚感があって見栄えが良いからだ。これは上手な「お金のかけ方」と言える。
以上、3つの注目ポイントを解説したが、飲食店がテイクアウトで成功するには、マーケットの分析や独自の創意工夫が大切であることがよく分かる。緊急事態宣言の解除後は、「ステイホーム」で弁当を買ってくれていた地元客が他地域に出勤するようになったため、「炭火はじめ」でも弁当売上は解除前よりもかなり減ったが、岡田店長は「営業自粛の期間中、弁当販売が店の大きな支えになりました。日々、試行錯誤しながらの弁当販売ですが、これからの戦い方が一つ、増えた感じです」と話す。同店にとって弁当販売は、今後にもつながる非常に有意義な取り組みになった。
また、同店のテイクアウトの成功においては、実はSNSでの情報発信も重要な役割を果たした。その点については、同店のSNS活用の取り組みを紹介する次回以降のレポートの中で解説したい。
炭火はじめ
神奈川県相模原市緑区橋本3-13
パークスクウェア1F

この記事を書いた人

Hitoshi Kametaka
亀高 斉
1992年に(株)旭屋出版に入社し、1997年に飲食店経営専門誌の「月刊近代食堂」編集長に就任。以来17年間、「近代食堂」編集長を務め、中小飲食店から大手企業まで数多くの繁盛店やヒットメニューを取材。2016年に独立し、フリーの企画・編集・ライターとして活動。