コラム

HCJ2022 特別企画対談
ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts
フード&ビバレッジ シフトリーダー 木村氏
 ×
トラベルジャーナリスト 泉美氏

木村氏
木村愛氏

聞き手/写真 泉美 咲月氏
ゲスト ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts フード&ビバレッジ シフトリーダー 木村 愛氏
(以下敬称略)

木村氏

木村 愛(きむら あい)
ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts フード&ビバレッジ シフトリーダー ※所属・役職はインタビュー当時のものです
学生の頃よりホスピタリティ業界に興味を持ち、飲食店でアルバイトを始め、日本の大学を卒業後は、サービス業を極めるためにホスピタリティを学べるカナダの専門学校へ1年留学。その後、スイスの大学院にてホテルマネージメントとツーリズムを学ぶ。大学院卒業後は、ヒルトンの最上級ブランド「ウォルドルフ アストリア ドバイ パーム ジュメイラ」にて1年勤務。2021年に帰国し、「ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts」のオープニングメンバーとして入社、フード&ビバレッジのシフトリーダーとして従事する。

テルで誰からサービスを受けるのか?

私たちは、人生であと何回食事をして、残り何回食事をすることができるのでしょうか。年を重ねる毎に確実に少なくなっていくお皿の数を思えば、ますます飲食が貴重に思えるものです。ですからなお更、食事をする場所にこだわりたいものですし、ホテルレストランにあっては、その場にふさわしい人材を確保して欲しいと考えます。

では、生産者が心血を注ぎ、シェフが精魂込めて作りだした、ひと皿の料理の仕上げをするのは、どんな人材が相応しいでしょうか?

ただ、料理を運ぶのではなく感動と記憶を届ける。それが飲食に関わるプロフェッショナルに求めるサービス。また、何を食べるかより誰と食べるかも大切ですね。その際、必然的に場所を選ぶ必要があるのですが、ゲストは料理を選べても、あいにくサービスする者を選べません。一方で、スタッフの心遣いひとつで料理の味も、その日の想い出も左右されます。

2021年秋、私に改めて自問自答させてくれたのが、若干26歳。『ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts』のフード&ビバレッジ シフトリーダーであり、レストラン『TENJIN』で『シェフズテーブル』を担当されている木村 愛さんです。

泉美氏 木村氏
(左)泉美 咲月氏(右)木村 愛氏 撮影:丸尾智雅(日本能率協会)

泉美:私が初めて『ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts』に試泊させていただいたのは、2021年9月16日の開業早々、10月14日のことでした。『シェフズテーブル』でディナーをいただきつつ、木村さんの働きぶり、サービスの細やかさ、なにより情熱を目の当たりにし「ああ、この方を対談にお招きしたいな」と初対面で思い、チェックアウトの際に総支配人に早速お願いをしたほどです。
 
2021年度に戴いたホテルレストランのコースメニューの中では、一番美味しく感じました。クオリティはもちろん、木村さんのサービスはワクワクするように楽しく、仕上げの調味料のようでした。

木村:ありがとうございます。私も泉美様がお越しくださったときのことは、よく覚えております。『シェフズテーブル』は、ディナーのみの営業でございまして、総料理長の谷口彰とアシスタントシェフ、そして、私やレストランスタッフがサービスを提供しております。

泉美: 木村さんは盛り上げ上手。料理の進行やシェフのコンディションを見計らいつつ、お料理を運んだり、ペアリングのお飲み物をサービスしたりする。お客様の雰囲気、お好みも瞬時に読み取る力も見えました。
 
まるでライブキッチンの演出家であり、演者のような役割をされているのが、まだ20代の方でしたので、なお更驚きました。

オープンキッチンスタイルの『シェフズテーブル』
オープンキッチンスタイルの『シェフズテーブル』。琳派ゆかりの地にちなみ、料理の技法や盛り付け、器にもこだわりを見せる

木村:『シェフズテーブル』は完全予約制で、カウンター13席のみのお座席となっております。限られた席数であるからこそ、おひとりおひとりに合わせた接客を心がけています。
 
例えば、極力喋りたくない、距離を置きたいという雰囲気をお持ちの方は、なるべくそっとしておいて差し上げます。一方で、私の話しに耳を傾けてくださり、リアクションも返してくださる方はお喋りも楽しみにしておいでくださっているのだなとか察しています。おひとり様の場合は、率先して話しかけさせていただくようにしています。

泉美:それはどうしてですか?

木村:人によって時間の感じ方はそれぞれですが、ひとりでいる時間は長く感じがちです。例えばお待たせする5分のお時間をあっという間に感じていただけるか、孤独を感じながらの20分にさせてしまうかで、満足度にも大きな差が生じます。ですから、なお更1名の場合は、気を配っております。
 
とはいっても、まだまだで日々の繰り返しで学ぶことばかりです。失敗と試行錯誤を繰り返し、試しながら接客と勉強をさせていただいております。

木村氏
『TENJIN』のバーエリアにて木村氏

泉美:当時、若いということは、いい訳にはならないと木村さんから教えていただきました。お料理とシェフを立てつつ、なによりもお客様に気を配る。まさに「ホスピタリティ」ですね。そして一番楽しそうにされてるのが木村さんなんですね。それがレストランの起爆剤になってお客様が美味しく楽しい時間を共用されているのが見ることができました。
 
『シェフズテーブル』は、アルコールとノンアルコールのペアリングがセットですが、感心したのが、お酒を選ばれた方にもノンアルコールドリンクのお味見をおススメしている点です。
 
機転が利く一方で、違う組み合わせでお料理との魅力をぜひ知って頂きたいという気持ちを本当に前に前にと出ているのを拝見しました。
 
なんでもスタッフやお客様から「女将」と呼ばれているそうですね(笑)。まさに女将のようであり看板娘でもある。とても可愛らしいし陽気だし『ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts』は良いFBを抱えておいでだと思いました。まさに器(ホテルブランド)ではなく、人ですからね。

木村:いえいえ、失敗ばかりで、よく挫けております。泉美様のご接客の際も後悔致しました。泉美様は、ノンアルコールのペアリングをご希望で、さらに鶏肉が苦手ということでしたので代わりに牛フィレ肉をお出ししました。
 
本来、スパイスたっぷりの鴨肉に合わせたペアリングを想定しておりますので、直前で迷ったものの鴨用のジンジャーシロップを加えたノンアルコールワインのメルローをお出ししたことが心残りになりました。ちなみにアルコールの場合は、ピノ・ノワールをペアリングしております。
 
すると泉美様は、口にした途端にそれを指摘してくださいました。ああ、やっぱり、ジンジャーシロップを加えず、せめてメルローのままでお出しすればよかったと落胆しました。
 
そのミスはアルコールでも同様と学びになりました。以降、牛フィレを選ばれたお客様には、カベルネ・ソーヴィニヨンを合わせるなどの工夫をしております。

泉美:お酒が飲めない訳ではなく、近頃、私は進んでノンアルコールのペアリングを試し向学を深めています。お肉は美味しかったものの、ペアリングとは合っていなかったため、率直にお伝えしたという訳です。完璧に組み合わせたコースメニューも、そうしたお客様のリクエストでたちまち崩れるものです。
 
とはいえ、ホテルレストランに求められるのは、使う食材や調理の仕方などのこだわりばかりではありません。とくに現代では苦手な食材やアレルギー、宗教的な理由にどうお答えするか。また、即興でどうリクエストにお応えするかもラグジュアリーホテルに求められるものかなと思います。

木村:不勉強もあってアルコールでご指摘を受けることはこれまでにもございましたし、『シェフズテーブル』はカウンター越しのせいか、皆さま積極的にご意見してくださいます。
 
とくにサラダなどの野菜とのペアリングは難しいものですね。ご意見いただいたときは、すぐバーテンダーに相談し、試行錯誤しつつ改善に励みます。普通に飲んで美味しいではなく、それぞれのお料理と調和がとれてなければ意味がありません。

泉美:そうですよね。その甲斐あって、工夫を感じさせるペアリングでした。加えて、ナイフのチョイスの際も、印象的でした。お肉料理の際にお好みのナイフを選ぶサービスはよくありますが、木村さんの場合は、「何種類でも使ってください!」と大盤振る舞い。切るためのお肉が足りなくらいでした(笑)。

木村:とくに、おひとりのお客様にはより楽しんでいただきたくて「どうぞ、どうぞ」と(笑)。

泉美:そこに発見がありました。大抵、柄や全体のデザインなどで直感的にチョイスします。2本目を試したところ、切れ味でお肉が大きく違いました。ある程度、サシのあるお肉をザクザク荒く切れるナイフで食べると脂身を感じ過ぎてしまい、苦手に感じてしまうなと。
 
一方でシャープに切れるナイフで切れば同じ肉質でもあっさりと感じられます。肉質やソース、調理にこだわるばかりでなく、ナイフも肉料理の味を左右するという勉強ができました。
 
ところで、木村さんの原動力とはなんでしょうか?失敗に挫けず、意見を受け止め、恐れずにトライ&エラーを繰り返すのはなぜでしょうか?

木村:なかなか信じていただけないもののお客様の笑顔が最大の原動力です。笑顔こそ、取り繕うことはできないものですよね。心からの笑顔を見たときに「頑張ろう!」と疲れさえ吹き飛び、私も微笑むことができます。
 
一緒に働いている仲間の笑顔もそのひとつですし、そうして至福を得て1年でも2年でも頑張り続けていられる気持ちになるんです。

泉美:素晴らしいですね、一方で心が折れることはありますか?

木村:たくさんあります。例えば、オーダーを忘れてしまう、遅くなってしまうなどの間違えが起こったとします。その際に優しいお客様にかえってお気遣いさせてしまい「気にしなくて大丈夫ですよ。もういらないですよ」とお断りをさせてしまうことがあります。
 
それは、私のミスから生じていて、お客様をガッカリさせてしまっている訳ですから苦情を言われるよりつらいと感じ、また自分のミスが許せなくて心が折れます。完璧に近づけたいと思う性格なので、簡単に心が折れてしまいがちです。

泉美:ありがちであり、あってはいけないミスで、FBの方ならば皆さん、ご経験があるのではないでしょうか。そういう場合、木村さんはどう改善し、心を立て直すのでしょうか?

木村:立ち止まらないということでしょうか。どうすべきだったかを反省して、次に同じミスをしてしまったときのために予習を繰り返す。とはいえ、一か月ぐらい引きずってしまうのですが、前に進めるように自分を励まし続けています。

泉美:脳科学によると「落ちこむ」と「反省する」は、同じではないそうです。「落ちこむ」は、脳にブレーキをかけている状態。「反省」は、今後、失敗しないために成長させる行為。失敗に使った脳の関連回路に刺激が行き、同じ信号がいかなくなり、失敗しなくなる。だからこそ、脳が進化し、失敗しない脳を作るためにも失敗は必要なんです。

「ラグジュアリーホテルブランド」に求められることとは?

泉美:さて、初めてお逢いしたのは、月の美しい夜で、紅葉が始まろうとする秋の終わりでしたね。木村さんから『TENJIN』のテラスでデザートをとススメていただいた際、どうしてFBになったか、前職のドバイでのホテルの出来事などをお話ししてくださったことも印象的でした。

料理イメージ

木村:私は千葉の外国語学科の外国語の大学を卒業したのち、ホスピタリティを学べるカナダの専門学校で1年間学びました。その後、スイスの大学院では1年間、ホテルマネジメントとツーリズムについて学びました。その際にインターンシップでアメリカのCallasaja Clubというオールデイダイニングで初めてサービスの現場に立ちました。卒業後、ヒルトンの最上級ブランドである『ウォルドルフ アストリア ドバイ パーム ジュメイラ』にて1年勤務しました。
 
どこでもレストランに勤務していましたが、英語で接客することになかなか慣れませんでした。とくに「ウォルドルフ アストリア」では、普通の英語ではなくラグジュアリーランゲージという言語を使う必要があります。
 
例えばお客様に対して「your welcome」「It’s OK」「It’s fine」は使えません。この場合、「My pleasure」となります。「かしこまりました」も「Certainly」。決まった言語を新たに覚えて話すことがとても難しかったです。

泉美:帰国後、『ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts』をなぜ選んだのでしょうか。

木村:私はヒルトンブランドの中でも、とりわけラグジュアリーブランドに興味を持ってきました。ヒルトンブランドの最上級ラグジュアリーブランドが「ウォルドルフ アストリア」と「LXR Hotels & Resorts」となります。それが出身地でもある京都に初進出すると知り、ドバイのF Bディレクターに推薦してもらいました。おかげさまで、故郷に戻るきっかけにもなりました。

泉美:ヒルトンのラグジュアリーブランドに惹かれる理由とは?

木村:ラグジュアリーに求められることは「繋がり」だと考えます。そして一般的なヒルトンのサービスに加えてプラスアルファを提供するルールがあります。お客様の喜ぶこと、想像以上の「Wow!」を提供する立場でなくてはなりません。どうしたら喜んでいただけるかを追求する意義がラグジュアリーブランドにはあるのです。

泉美:そうした意味でも、FB職は、木村さんがもっともお客様に提供する「Wow!」が表現できる場所でもあるんですね。

木村:はい。私は接客が命で、趣味でもあります(笑)。仕事が好きで好きで、他のセクションからオファーを貰っても、レストランが大好きなので毎回お断りしています。

泉美:異国の地でのご苦労に加えてコロナ禍。さぞや不安だったと思います。そうした経験をバネに伸び伸びとお客様にサービスする姿は、今の時代であるからこそ励まされ、感動を覚えます。ぜひ多くの方に木村さんの「Wow!」を感じていただきたいですね。そうすることで『ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts』を同時に体感できると思います。

トラベルジャーナリスト/文筆家/写真家
泉美 咲月(いずみ・さつき)

1966年生まれ、栃木県出身。伝統芸能から旅までと幅広く執筆・撮影・編集をこなし、近年はトラベルジャーナリストとして活動。海外渡航歴は44年に渡り、著書には『台湾カフェ漫遊』(情報センター出版局)、『京都とっておき和菓子散歩』(河出書房新社)、『40代大人女子のための開運タイごほうび旅行』(太田出版)他がある。アジア旅の経験を活かし、2018年、自身運営の『アジア旅を愛する大人のWebマガジン Voyager』を立ち上げる。タイ国政府観光庁認定 タイランドスペシャリスト2019及びフィリピン政府観光省認定 フィリピン・トラベルマイスター2021。また、日本の医師30万人(医師の94%)が会員である医療ポータルサイト『m3.com』内、Doctors LIFESTYLE編集部にて編集部員兼、医師に向けた旅や暮らしのガイドを務めている。ホテルの扉が1軒でも開いている限り、取材を続けたいという想いのもと、コロナ禍においても一時期を除き、週に1記事以上の頻度でラグジュアリーホテルの取材・執筆を続けている。
ブログ:https://izumi-satsuki-blog.com/
Instagram:https://www.instagram.com/satsukiizumi/

泉美 咲月氏

 HCJ 最新情報案内

セミナーやイベント、来場登録、招待状など
HCJの最新情報をメールにてお届けします。

ご登録はこちらから