コラム

HCJ2022 特別企画対談
フォーシーズンズホテル京都 シニアドアアテンダント 片岡 真也氏
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トラベルジャーナリスト 泉美氏


一生ドアマンを胸に今日もゲストを迎える片岡氏

聞き手/写真 泉美 咲月氏
ゲスト フォーシーズンズホテル京都 シニアドアアテンダント 片岡 真也氏
(以下敬称略)

片岡 真也(かたおか・しんや)
フォーシーズンズホテル京都 シニアドアアテンダント
2016年、神戸ベイシェラトンホテル&タワーズに新入社員として入社。採用の面接の際に当時のドアマンからサービスを受け、ドアマンという仕事に魅了され憧れを抱くようになる。採用確定後、その主旨を伝えドアマンに配属してほしいと希望を出し、念願のドアマンに。2016年秋 フォーシーズンズホテル京都にドアアテンダントとして入社。2021年、シニアドアアテンダントに昇格。

声がけに命をかける、若きドアマンの情熱とは?

ホテルマンを一生の仕事と胸に誓い、その生涯においてホテルマンで生き抜く人は、果たしてどれほどの割合いで、この日本に存在しているのでしょうか?

時は2019年。試泊でお訪ねした『フォーシーズンズホテル京都』で出迎えてくれたのは、若きドアマン、片岡真也さんでした。その時感じた彼の情熱と、受けた感動は、後にも先にも、それ以上のホスピタリティに未だ出逢ったことがないほど。

当時、心に深く刺さったのは、「僕はこの仕事に命をかけていますから!」という熱い言葉。その真意をお尋ねしたく片岡さんを訪ねました。


(左)泉美 咲月氏(右)片岡 真也氏

泉美:2019年の9月、初めてこちらに取材にお伺いした時のことでした。車寄せでタクシーを降りようとしたら、ドアマンが駆け寄りドアを開けてくださったのですが、間髪入れずに「泉美様ですね。お待ち申し上げておりました」と声をかけられました。それが片岡さんで、瞬時にネームプレートを見たのを覚えています。
 
『フォーシーズンズホテル京都』は、一般道から正面玄関まで細く長いアプローチが続き、ドアマンのいる正面玄関の位置からはゲストの顔は認識しづらいはずなので、とくに驚きました。ちょうど到着直前までスマホでメールを書いていて顔を伏せていたものですから、なお更です。ホテルの送迎で到着した訳でも、以前、インスペクションをしていただいた広報さんでもないので、つい「どうしてわかったの?」と尋ねてしまいました。どこかにカメラでもあるのかなと。
 
すると片岡さんが涼しい顔で「秘密です」と(笑)。そして、私がホテルを去る際に、感動をお伝えすると、胸を張って「僕はこの仕事に命をかけていますから!」と高らかに放った姿も印象的でした。驚きと共に、このホテルのスタッフのクオリティの高さ、そしてホテルの未来を担う若手の逞しさも感じたものです。

片岡:命をかけているというと大げさに聞こえるかもしれませんが、ご到着のその一瞬に重きを置き、事前に予約状況を把握、確認し自分なりの準備をさせていただいております。今やインターネットの時代となり、あらかじめお顔や雰囲気を把握し、お名前をお呼びし、お出迎えをすることを心掛けています。
 
当時、取材でお越しになる泉美様をお迎えするにあたって、SNSやHPでプロフィールをご確認し、ご到着時間や当日のスケジュールも早い段階で把握できておりましたので、最初のひと言をおかけすることができました。取材だからとかVIPだからではなく、すべてのお客様に心掛けさせていただいている、私なりのお出迎えです。

泉美: ご様子は、自信に満ち溢れていました。そして、片岡さんから「13時よりスパの撮影と伺っております」などとドアマンが取材スケジュールを把握していたことにも驚かされました。それらは会社の指導ですか? それとも片岡さん独自のものですか?

片岡:はい、独自のものです。私はドアマンとしてのサービスを提供するにあたって、到着の一瞬が命だと思っております。お客様も到着した際に名前を呼ばれたらびっくりされますし、嬉しく感じてくださるのではないかと信じ、そのお声掛けが私の使命だと思って毎日働いております。

泉美:当時は26歳、現在、28歳とお若いのに、素晴らしい心掛けです。まずは今日に至るご経歴をお聞かせください。

片岡:私は兵庫県出身で大学卒業後、神戸にある『神戸ベイシェラトンホテル&タワーズ』に就職しました。そこでドアマンとして働き、その後、『フォーシーズンズホテル京都』が開業し、縁があってオープン早々に入社しドアアテンダントとして配属され、2022年で6年になります。

泉美:片岡さんの「ドアマンたる」持論をさらにお聞かせください。

片岡:最初のお声掛けに始まり、ホテル内や外出から戻られた際などのコミュニケーションを大切にしております。お帰りには「ご滞在はいかがでしたか?」とか「不都合はありませんでしたか?」などとお伺いし、次回のご滞在をより有意義にできるようにご感想をお尋ねする。そして、最後のお見送りまでがドアマンの責務だと考えています。

泉美:確かにお出迎えの一瞬で、ホテルの印象が左右されます。私も、その情熱を直に感じ、「すごいな、このホテルは良いスタッフを持っているな」と感心したものです。

片岡:そう思っていただけて光栄です。

涯ドアマンであり続ける誓いと決意

泉美:そもそも、どういった経緯でドアマンを志望されたのでしょうか?

片岡:先ほど申したように最初に神戸のホテルに就職をしたのですが、面接時にドアマンが迎えてくれました。着なれないスーツに靴、鞄と、誰が見ても学生の面接スタイルで正面玄関に立ちました。すると、出迎えてくれたドアマンの対応がとても手厚く、お客様の分け隔てなく接してくださったんですね。それがとても印象的で、「すごくカッコいいな」「すごいホテルだな」と感動しまして、面接時に、ここで働きたいと強く志望しました。

泉美:そして、以来ドアマンに命をかけている訳ですね。

片岡:生涯ドアマンの覚悟です。ホテルにもよると思いますが職務形態は様々で、例えばドアマンから入ってフロントに配属されて経験を重ねていくとところもあるかと思います。その点、『フォーシーズンズホテル京都』は、自分から所属や仕事をオファーできます。人事の都合で辞令が下りて、移動になるということがないので、私が志望しない限りドアマンでいられます。

泉美:なるほど。過去に訪ねた海外のホテルには入社以来、ドアマンに従事し、アンバサダーに任命されている、ホテルの顔も多々おいででお目にかかったことがあります。

片岡:他国のフォーシーズンズホテルにも40年ほどドアマンしているスタッフがいるそうです。また、海外では10年、20年プレイヤーというのは当たり前だと聞き、私も、そういうドアマンになりたいと憧れています。


ホテルロビー階に位置する『ザ・ラウンジ&バー』にて

泉美:その最初に迎えてくださった神戸のドアマンの方以外に、片岡さんが目標とされる先輩ドアマンがおいでですか?

片岡:憧れの存在というよりは、自分自身がこうなりたいと思う理想像を強く持っていますね。それは、「あのドアマンに会いに行きたいな」というお客様の宿泊の動機となるドアマンになることです。嬉しいことに実は、これが少しずつ叶って来ております。

泉美:それは、このように口に出して実行に移されているからではないですか? 現にこうして、片岡さんに会いたいと取材に来る訳ですし(笑)。
大切なゲストとして扱われるだけではなく、まるで家族のように、友達のようにお迎えし親身に接してくれるホテルがあるということが、お客様の安らぎと満足感に繋がり、京都の“我が家”として『フォーシーズンズホテル京都』をお選びいただいている訳ですが、それがコンシェルジュからドアマンまで行き渡っていたら最強です。

片岡:フォーシーズンズホテル自体が目指す方針でもありますが、私の志とも重なり、サービスを発揮できるチャンスをいただいています。

泉美:折下、予想だにしなかったコロナ禍が2020年に世界中を覆いつくしました。観光都市である京都の打撃はいまだに続いています。この2年を振り返り、いかがでしたか?

片岡:海外のお客様がお越しになれない状況が続き、京都そのものがひっそりしてしまいましたから、仕事をする上でのモチベーションが上がらないということも正直ありました。

泉美:ホスピタリティを発揮してこそ、喜んでいただけてこそ、モチベーションが上がるもの。クローズはあったのでしょうか?

片岡:最初の緊急事態宣言の際に閉りました。ずっと家で過ごすしことにめげない様に勉強したりだとか体を動かしたりしてました。ですから、営業が再開し仲間の顔を見た時、なによりお客様を再びお迎えできた時は殊の外、嬉しかったです。

泉美:ホテルがお好きなんですね。

片岡:大好きです。周囲が思っている以上に、本当に好きですね(笑)。ドアマンとして働くことの楽しさに加えて、スタッフ皆仲が良くて職場環境にも恵まれています。休みの日でもホテルに食事にきたり飲みにきたり、プライベートな時間もホテルから気持ちが離れることなく幸せが続いています。
 
かといって、プライベートを犠牲にしているわけではありません。それぞれのプライベートを大切にするというフォーシーズンズホテルそのものの考え方にもあります。休暇も勤務時間もきちんと管理されていて消化でき、残業を強制させられることもありませんから、その分、プライベートも充実でき疲れを貯めることもありません。

泉美:ストレスなく良い接客ができますね。では、これから片岡さんが目指してものはなんでしょうか?

片岡:新しい目標と立てるとか、ハードルを高くするとかではありません。常に周囲と、お客様とのコミュニケーションを心掛け、コロナがあってもなくても信念を曲げず、ブレずに突き進むだけだと思っています。

泉美:職人ですね、その考え方。

片岡:はい、ドアマンの生涯を突き進み、極めたいものです。

泉美:プライベートで旅行し、ホテルを利用されたりした時などに影響を受けることはありますか?

片岡:あります! 実は一昨年、結婚をいたしまして札幌に新婚旅行に参りました。宿泊したホテルで外出前に電話で留守中の清掃をお願いすると「かしこまりました。では、いってらっしゃいませ」と返ってきました。
言われる立場になってみて改めて電話越しに見送られてるような気分になりました。シンプルに嬉しくて素敵だなと思いましたし、私は電話が苦手なものですから、ならばお客様のために苦手を克服しなくてはいけないなと気持ちが引き締まりました。

泉美:ゲストの側に立って受けた感動は、片岡さんのホスピタリティに磨きをかけるはずです。そうして頑張る一方で失敗はありませんか?

片岡:失敗はしっかり反省して、すぐに忘れるようにしています。例をあげるとしたら、お迎えし「〇〇様、お待ち申し上げておりました」とお声がけして、フロントまでお通ししたものの、実は別のお客様と間違えていた……など、少なからずございます。

泉美:3年前の堂々とした片岡さんを思い返すと意外ですね(笑)。人間ですから失敗があって当然です。
とはいえ、お客様とホテルの一期一会の場所である正面玄関を任されるドアマンは重責を求められるもの。その点、片岡さんはご自身で考え、お客様のためにホテルへの扉を開いているように見えます。生涯を仕事に捧げるという考え方ではなく、人生を通してお迎えするお客様に、ホテルとの出逢いと感動を与えるドアマンになっていただきたいなと、再会し改めて思いました。

トラベルジャーナリスト/文筆家/写真家
泉美 咲月

1966年生まれ、栃木県出身。伝統芸能から旅までと幅広く執筆・撮影・編集をこなし、近年はトラベルジャーナリストとして活動。海外渡航歴は44年に渡り、著書には『台湾カフェ漫遊』(情報センター出版局)、『京都とっておき和菓子散歩』(河出書房新社)、『40代大人女子のための開運タイごほうび旅行』(太田出版)他がある。アジア旅の経験を活かし、2018年、自身運営の『アジア旅を愛する大人のWebマガジン Voyager』を立ち上げる。タイ国政府観光庁認定 タイランドスペシャリスト2019及びフィリピン政府観光省認定 フィリピン・トラベルマイスター2021。また、日本の医師30万人(医師の94%)が会員である医療ポータルサイト『m3.com』内、Doctors LIFESTYLE編集部にて編集部員兼、医師に向けた旅や暮らしのガイドを務めている。ホテルの扉が1軒でも開いている限り、取材を続けたいという想いのもと、コロナ禍においても一時期を除き、週に1記事の頻度でラグジュアリーホテルの取材・執筆を続けている。

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