コラム
飲食店の新たな売上として期待される「通販(EC)」。始める際に押さえておきたい注目事項 飲食店の新たなビジネスモデル#4
前回のレポートで、「ゴーストレストラン」を出店してデリバリーやテイクアウトの販売を強化する方法について解説したが、今、飲食店では「通販(EC)」を始めるケースも増えている。(株)飲食店繁盛会・代表取締役でコンサルタントの笠岡はじめ氏も、「これから飲食店は、戦える武器をたくさん持つことが必要。私も、飲食店の新たな販売チャンネルの一つとして、通販もやってみるべきだと思っています。顧問先の飲食店からも、通販サイトの立ち上げの依頼が増えています」と話す。
通販を始めても、すぐに上手くいくかどうかは分からない。しかし、「最初はそれでもいいのではないでしょうか。やる前から難しく考えすぎる必要はありません」と、笠岡氏はエールを送る。「急遽、通販を始めるので、最初は50点くらいのものしかできないかもしれない。でも、やっていればスキルが上がり、いつか100点のものができるかもしれない。そういう前向きな発想が大切です」(笠岡氏)。
そして、通販を始める際に必要なことは、主に以下の項目になるという。
①販売する商品に必要な営業許可などの取得
②販売する商品を決め、通販用商品を開発
③通販用商品を開発したら、生菌検査、賞味期限検査などの必要な検査を行う
④通販サイト構築のためのシステムを選び、通販サイトを構築
⑤SNSなどを活用して告知を行い、通販商品を販売する
それぞれの項目のポイントや注意点を、順を追って解説していこう。
①販売する商品に必要な営業許可などの取得
通販で食品を販売する場合、飲食店の営業許可に加えて、追加の営業許可の取得が必要になる場合がある。食品の種類に応じて、営業許可の取得や、販売する商品につける食品表示が必要になるため、所轄の保健所で相談・確認をした方が良い。当然ながら、法律違反や、衛生管理が不十分な商品の販売は禁物。通販を始める上での大前提だ。
②販売する商品を決め、通販用商品を開発
自店の料理、あるいはオリジナルのソースやタレ、ドレッシングなどから、通販向きの商品をリストアップ。差別化しやすい商品なのか、通販のギフト需要が見込める商品なのかなどをよく検討し、販売する商品を決める。ゴーストレストランが一種の業態開発であるのに対して、通販は「売れる商品づくり」の取り組み。「売れる商品」であるなら、極端に言えば1品だけでもOKなのが通販。
③通販用商品ができたら、生菌検査、賞味期限検査など必要な検査を行う
飲食店が通販で販売する食品は、冷凍ハンバーグや冷凍ピザ、冷凍ラーメンなど、日持ちする冷凍状態での販売も多い。仮に賞味期限が1ヵ月だとすると、賞味期限検査に最低でも1ヵ月以上かかることになる。通販を始めたい飲食店は、それだけの期間が必要であることを踏まえ、早めに商品開発に着手した方が良い。
④通販サイト構築のためのシステムを選び、通販サイトを構築
通販を始めたくても、決済はどうすれば良いのか?中には、そんな不安を持っている人もいるが、今は通販サイト構築のための便利なシステムがある(「BASE」、「Shopify」、「カラーミーショップ」等)。決済手数料やシステム使用料はかかるが、それらを活用すれば、「パソコンを使っている人であれば、それほど難しくない」(笠岡氏)という簡便さで、決済機能付きの通販サイトを構築できる。
⑤SNSなどを活用して告知を行い、通販商品を販売する
通販は、ネット上のショッピングモールに出店して販売する方法もある。しかし、出店経費などを考えると、「通販を始めたばかりの飲食店には、かなりハードルが高い」と笠岡氏は指摘する。
「通販だけで商売を成り立たせるには、相当の労力が必要です。最初からそれを目指すとなると、始めるのが難しくなります。今回、お話した通販の取り組みは、1割でも2割でも良いので売上をオンするのが目的。コロナ禍で減っている店内売上を補完できれば良いわけです。わざわざ競合が熾烈なモールで通販の専門店と競う必要はありません。まずはお金のかからないSNSなどをフル活用して、既存のお客様に告知します。既存のお客様に通販の商品が喜ばれ、口コミで評判が広がり、メディアに取り上げられるなどすれば理想的な展開です。実際、高い広告費をかけなくても、こうした流れで、売上の1~2割を通販で稼いでいる飲食店は少なくありません」(笠岡氏)
以上、通販を始める際に押さえておきたい項目について解説したが、最後にもう一つ、付け加えておきたい注目事項がある。通販を始める際に活用できる国の補助金だ。
例えば、「小規模事業者持続化補助金」がその一つ。笠岡氏によれば、今回解説した通販や、前回レポートしたゴーストレストランに新たに取り組む場合は、活用できる可能性が十分にあるという。そして、もう一つが「IT導入補助金」。「小規模事業者持続化補助金」を飲食店が活用する場合、社員が5名以下という条件があるが、この「IT導入補助金」であれば、それ以上の規模の会社でも活用できる。
なお、「IT導入補助金」は、「IT導入支援事業者」が提供するIT ツールを導入した場合に補助の対象になる。「飲食店販促コンサルタント兼Web活用コンサルタント」として活躍する笠岡氏の会社・飲食店繁盛会は、この「IT導入支援事業者」にも認定されている。
笠岡 はじめ
(株)飲食店繁盛会の代表取締役。飲食店販促コンサルタント兼Web活用コンサルタント。ウィズコロナ・アフターコロナに対応した飲食店の業態転換・ゴーストレストラン・通販事業構築など全国飲食店をサポート中。経済産業省推進資格ITコーディネータとしてIT分野でも活躍。著書に「飲食店完全バイブル 売れまくるメニューブックの作り方」など。(「飲食店繁盛会」で検索)

この記事を書いた人

Hitoshi Kametaka
亀高 斉
1992年に(株)旭屋出版に入社し、1997年に飲食店経営専門誌の「月刊近代食堂」編集長に就任。以来17年間、「近代食堂」編集長を務め、中小飲食店から大手企業まで数多くの繁盛店やヒットメニューを取材。2016年に独立し、フリーの企画・編集・ライターとして活動。